Red lipstick

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「ねえ、なんとか言ってよ」  声が震える。  ジョンは(うつむ)き左手で片目を覆った。 「俺には母親がいない。親父が離婚してから会っていないんだ。今は生きているか死んでいるのかも知らない」 「それがなんだというの」 「君は俺の妹だ。だから、兄として君に贈ったんだ。もうすぐクリスマスだしな」 「……は?」  なに言ってるの。  けれどジョンの口調はジョークとはほど遠いものだった。 「君の名前、手首の黒子(ホクロ)。偶然だと思った。三年だけ一緒に住んだ実の妹にそっくりだとね。最初それに気付いた時はただの偶然、他人の空似かと思ったけど聞いた境遇が全く同じだった。君が三歳の時に両親は離婚。君には兄がいてそいつは父親に、君は母親に引き取られたはずだ。父親の名前はアレックス。母親の名前はアナ。そうだろう?」 「ちょっと待ってよ」  私は首を振った。ジョンは悲しそうな顔をした。 「兄弟だって伝えようと思った。だけどそうしてなんになる。君は母親も、記憶にない父親すらも恨んでいたんだ。これ以上、辛い過去を思い出させたくなかった。……なによりやっと再開した妹である君に嫌われるのが怖かった」
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