(3)使用人

3/4
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「で、お花は?」 大きなおなかを抱え出迎えてくれは涼子は一清から聞いた今日の出来事を踏まえ、二輪のコスモスがない事に気が付いた。 「途中で猫が死んでて埋めた墓においてきちまったんだよ」 「私のコスモスを!?」 「あとクッキーも」 「ほんっとありえない!」 お土産として抱えていたコスモスとクッキーは自宅につく頃にはきれいさっぱり手元から消えていた。 コスモスは途中で見つけた死んだ猫の墓に、クッキーは助産院に立ち寄った際腹をすかせた産婆たちにあげてしまったのだ。 涼子はひとしきり頭を抱えたが、仕方がないと溜息をつき台所へ向かった。 「いいわよ。さっき隆之介さんが来て『一清のことだから帰る途中で誰かにあげちゃうだろう』ってもう一箱クッキーを置いていってくれたから」 読まれていた。 初めから一清がきちんと自宅までクッキーを運べないと赤鹿はお見通しだったらしい。 長いこと一緒にいた仲だ。それくらい朝飯前なのだろう。少し悔しい。 「それより、体は大丈夫なのか?涼子」 「お医者様にも少し動くように言われたの」 青い着物の袖をたくし上げ、慣れた手つきでお茶を注いでいく。 顔にかかる短く切りそろえられた髪の毛を耳にかける。瞳と同じ黒い髪の毛。なんどその髪を羨ましいと思ったことか。 「一清」 「なんだ?」 「家でくらいその伊達メガネ、外してよ」 ああ悪い。慣れた手つきでメガネを外し、首から下げる。 度の入っていない伊達メガネ。これは外出のさい幽霊を視界から消すための必需品だ。 一清は何度か生きている人間と幽霊を見間違えている。 過去には幽霊を追いかけ線路に飛び降りたことも、溺れている幽霊を人と勘違いし泳げもしないのに海に飛び込んだこともある。 このメガネは一清の幽霊事情を知っている知人が作ってくれたものだ。 一清が生きていくのに必要なもの。 そして、幽霊を遮ることともう一つ役目があった。 「家の中では貴方の髪や目をとやかく言う人はいないの。堂々としてちょうだい」 そう。この異人であることを象徴する髪と目を隠すためだ。 髪は帽子を被ればいくらでも誤魔化しがきく。しかし目の色ばかしはどうすることできない。唯一の手段としては、このメガネをかけることぐらいだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!