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「どうしたの?よっちゃん、浮かない顔して」
「どうもこうもない。お前の顔・・・」
「えっ、私の顔?何かついてる?」
「そんなことじゃない。顔だけじゃなくて・・・」と義男が口籠ると、暫くしてから寝ぼけながらも腑に落ちた貴子は、恥じ入るやら頭に来るやらで顔が赤くなってきて自棄糞で叫んだ。
「もう、顔だけじゃないって、よっちゃん!起きた早々他に私のどこが不満なのよ!」
「いや、だから・・・」
言わずもがな全部と言いたかったのだが、建前を重んじる義男は言えなかった。
事情をはっきり汲み取った貴子は、泣きながら嘆きに嘆いた。
「うぇ~ん、うぇ~ん、どうせ私はブスよ!どうせ私はデブよ!でも、よっちゃんだって言えた義理!」
「お、俺はお前の欠点を何も言ってないよ」
「言ってるようなものよ!どうせなら本音を吐き出したらどうなの」
「い、いや、俺はお前に好意を持ってるから」と言いながらもこの時、好意も持っていなかった。
「好意?この期に及んで何言ってんのよ!そんなの水臭いわよ!そんなの余所余所しいわよ!夫婦なら好きって言ってよ!」
「あ、ああ」と義男は然も狼狽しながら言った。「す、す、好きだよ」
「何、無理矢理言ってんのよ、そんなに言いにくいの!全然気持ちがこもってないじゃない!」
「わ、悪かった。す、好きだよ」
「ほんとでしょうねえ・・・」と貴子に睨みを利かされた義男は、蛇に睨まれた蛙の如く射竦められ、「あ、ああ」と点頭した。
その困惑した気色に貴子は勝ち誇ったように言った。
「ふふふ、そう、私もよっちゃんが好きよ」
確かに貴子はセックスに満足していたことも手伝って義男をより好きになっていた。
一方、義男は本音と建て前、好きと好意の狭間で葛藤し、呻吟するのだった。
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