有り余るほどの大切な記憶の一部

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 ねぇ、覚えてる?  あなたが一番最初にくれた、クリスマスプレゼント。  柔らかい色合いの黒と白のチェック、端には私の大好きなキャラクター、世界に1つしかない、薄手のマフラー。  キャラクターだけ布地で作ってみたんだ、って言ってたね。物は大したことないけど、って、渡してくれたね。  私はマフラーの値段より、あなたが私の好きなものを覚えてくれていたこと、それを手作りしてくれたことが、何より嬉しかった。  私のこと考えてくれてるんだって、身に染みて分かったから。  涙がこぼれ出る私と、テーブル越しに困ったように微笑むあなた。  ……本当に嬉しかった。  私が落ち着いたのを見るとプレゼントの解説が始まったよね。  こだわりポイントは、家に偶然あったそのキャラクターのぬいぐるみから、生地を切り取って使ったこと。だから本物だよって、少し自慢気に話していたね。  そんなこと気にしてないんだけど、その話を聞いているだけであなたのことを知れる気がしたから、私にこにこしてた。琴線がそこにあるんだなぁって。なんか微笑ましかったよ。  別の日に冷静になって見てみると、私よりも裁縫が上手なことに、ちょっとしたショックと、大きな尊敬を持ったっけ。  今でも便利で使ってるの。薄手のマフラーってなかなかないもの。  お部屋で上着にかけている特別なマフラーを見て、思い出す過去の記憶。同時に、これでよかったのかなって、心にちくりと針が刺さる。  私のため、あなたのために二人で決断したこと。前を向いて、お互いの夢のために進んでいこうって、私から言い出したの。  なのに、こうやって思い出しては、想いを全部込めて、大好きだよ、って言いたくなるの。  でも喉がつまって、前が滲んで、口に出せない。  大丈夫、頑張ろうって言ったんだ。泣いてなんかいられないから。いつかこんな気持ちが慣れて消えてしまうまでは、少し大変だけど、前を見なきゃね。  マフラーはもう、見ないよ。
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