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「まあそれは、置いといてだね」
「ダメです」
愛理の鋭い突っ込み。
「すいません。来年はちゃんと仕事します」
「しっかりして下さいよ所長。本業を置いておいちゃダメです。衣食住を足りて礼節を知るという言葉がありまして……」
「はい、どうもすいません」
ぺこぺこ。
あれ? ここの所長って僕だよね?
「それはそうと、この『ジャンパー』ってうまいモンだねえ。あたしゃこの年になって始めて飲んだよ」
シャンパンが『ジャンパー』になっている。僕も34年生きて、ジャンパーは飲んだことがありませんよ大家さん。
「鍋はそろそろ終わりっスけど、シメにうどんか雑炊にでもするっスか?」
上野さんが提案してくれた。満場一致で、雑炊に決定。
「せっかくのクリスマスだし、ケーキがあればよかったかもしれないね」
「先生、ぼくが買ってきますよ」
「あ、申し訳ないね」
前野が提案してくれて、外に出ていった。
この一年で色々なことがあったけれど、この生活も案外、悪くないものだね。
願わくばずっと、ここでの生活が続いていけばいい。そう願うのも、贅沢というものだろうか──
「どうしたんですか? 所長。珍しく真面目な顔してますけど」
僕の真面目な顔はレアらしい。
「いや、この一年色々なことがあったなって……」
「そうですね。本当に」
そっ。と愛理が寄り添ってきてくれた。
自然と寄りかかってきた愛理の左手を握ろうと手を伸ばし──
「ところでアンタら、年末年始はどうするんだい?」
大家さんの顔がカットインした。
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