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「……正直な話、この年になると、あと何年、こうやって年を越せるか心配になっちゃうもんさね」
「なんですか。大家さんらしくないですよ」
ははっ。と笑いかけるが、大家さんは前を見据えたまま、キセルをくわえた。
「らしくないさね。久しぶりに1人じゃないクリスマスなんて経験したせいか、酒のせいかわからないよ。けどさ、笑っちまうだろう? この年になってさ久しぶりに『寂しい』って感情を思い出したのさね」
「……」
僕は小さくなったタバコを消し、大家さんを横目で見る。
「寂しいって、何が恥ずかしいんですか」
「何言ってんだい、いい歳したバアさんが寂しいなんてさ、忘れておくれよ」
「……恥ずかしいことなんてありません。むしろ、"寂しい"ことを忘れてしまう。そんな『寂しい』ことはありませんよ」
「……!」
「人は1人じゃ生きていけないんです。僕だってそう、大家さんに愛理がいてくれるから……なんて、少々酔いが回ったようですね、戻りましょうか」
「……ありがとうよ」
大家さんの残した小さなつぶやきは、紫煙に紛れて消えた。
だけど、その言葉は決して、消えることはない。
「おかえりなさい、先生」
鼻を真っ赤にした前田が帰ってきていた。手には小ぶりながらも、大き目のショートケーキがあった。
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