新妻探偵失踪事件・後日談

14/24
前へ
/24ページ
次へ
 この時間帯なら、売り切れててもおかしくなかっただろうに。 「手間をかけて悪かったね」  素直に礼を言う。 「とんでもないです。これくらい」  前田は屈託のない笑顔で言った。  最初の印象がよくなかったせいか、嫌厭(けんえん)していたが(人混み狂騒曲・参照)言うほど悪い青年ではないかもしれないね。 「先生、ちょっとお話があるんですけど、いいですか?」 「うん?」  ここではなんですから。と言うから一緒に屋上に来た。 「先生と二人でこういうところに来ると、学生時代、屋上に呼び出して告白ってのを思い出しますね」  思い出さない。  学生時代はそんな、甘ずっぱい思い出は体験していないんだよ。  今ってLINEとかSNSで告白するもんじゃないのかな?(偏見) 「若いのに意外と古風だね。僕の世代なんかじゃ、そういう風習もあったみたいだけど」 「風習ってそんな、"ならわし"みたいに言わないで下さいよ」  ははっ。と前田……くんが笑う。これだけを見ていると、あどけなさの残る青年なんだけどねえ。 「それで話って?」  雪が積もってきているので普通に寒い。タバコをくわえて火をつける。 「先生とあらためて二人でいると……なんか、こう、ドキドキしますね」 「僕はどちらかとハラハラするね」  この話はヒューマンドラマであってBLではないので、それ以上は近づかないでもらおうか。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加