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「失礼します」
前野くんがポケットから、小さな筒を取り出した。電子タバコのように見える。
「君もタバコを吸うの? それってアイコスだっけ?」
「緊張してるものですから。少し前からコレです」
グローというらしい。タバコと違い、有害物質は含まれておらず、果物風味だとか。吐き出される白い煙は水蒸気らしい。
「へえ? そういうものもあるんだね」
果物風味のフレーバーって体に悪そうだけど、タバコだって体にはよくないか。
並んで白い煙を吐き出す。
「先日の事件の時はご迷惑をおかけしました」
改めてお詫びをされた。人混み事件の時か。
「いいさ、終わったことだ。それにドアも保険で新品になったし、隙間風が入らなくなって愛理も喜んでたよ」
僕は柵を背に、前野くんは柵に腕を乗せてもたれかかる。
気のせいかな、デジャウを感じるよ。
「でもご迷惑かけたことは事実ですから」
前野くんはくわえグローで、小さく微笑んで見せた。
「……君も不思議な奴だな、僕のことを『先生』と呼ぶ真意も分からないし、君の、本当の意味での目的が分からない」
まさか本当に、狙いは僕自身か!?
そういうことへの偏見はないが、僕には愛理という存在が……。
「そんなに警戒しないで下さい。僕はちょっとだけ異形を操ることができる、三流霊媒師ですよ」
十分警戒に値する。
ちょっとだけ異形を操られるのも困るが、そういうものを操る人間が三流ではダメだろ。一流になってから操りなさい。
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