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「……せっかくのクリスマスだっていうのに、お邪魔してすいませんでした」
「本当だよ」
それをハッキリ口にする。
「うっ、先生、厳しいですね」
「話ってのはそれかい?」
「ええ、先生にはどうしても、先の事件のお詫びをしておきたくて」
意外と律義だね。うん、感心した。
自然と事務所内に戻る流れとなった。
「先生、本当は今日は……来るべきか迷っていたんです。お邪魔しちゃいけないって気持ちと、ちゃんと謝りたいって気持ちがあって……どっちが正しかったのかは、分からないですけど」
背中越しに、前野くんの声が聞こえた。
少し立ち止まって、空をみる。
「……あのね。人生ってのは常に、選択の連続なんだよ。ただ人は悲しいかな、どの選択を選んでも『これでよかったのか』って迷ってしまうものらしいんだ」
「そう、なんですか」
「そんな時は、君が一番、後悔しないと思う選択をするといい」
「後悔しない、選択……ですか」
「君はちゃんと謝ったことを後悔するのか?」
「! ……いえ」
「ならいいじゃない。おかげで楽しいクリスマスだったよ、ケーキ、ありがとうね」
肩越しに右手を上げた。振り返ってはいないけど、前野くんは頭を下げてくれていたようだ。
よしてくれよ、僕はそこまで、誇れた人間ではないさ。
そして事務所に戻ると──
「あ、しょちょう。お帰りなさい」
少し酔いの回った愛理に、ケーキは完食されていた。
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