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「所長、考え事ですか? 世紀末みたいな顔になってますよ?」
ついにぼくの顔は世紀の終わりを迎えたらしい。
「そろそろ仕事納めも近いなって、しみじみね」
「この事務所、毎日が仕事納めみたいなものですから」
うーん怒ってるなあ。しかも的を得ているだけに言い返せない。
多分アレだなあ。ぼくの失踪事件が終わって連日、あれだこれだと付き合いで飲み歩いていたし、クリスマスなのにケーキの一つも用意してなかったから、スネているんだろうなあ。
このまま特にやることもないし、今日はとっとと切り上げて、愛理と鍋でも食べようか。
「あーっ、愛理くん。そのなんだ、今日は暇かね?」
「……クリスマスに暇か? って所長、デリカシーないですよ」
え? そうなの? 聞き方がマズかったか。乙女心は難しいなあ。
このままだと僕の椅子まで没収しかねない。明るい話題でも振ってみようか。
「ねえ愛理くん。今日はその、時間的なものが空いていたらさ、ぼくとこう、向かあいあってさ、棒とオマタを使ってツツき合いなんてどうだい?」
「ちょっと! 所長、セクハラですか! 僕のオマタでお前を突くぞなんて最低です!」
「ちょっ、ちょっと待ちたまえ! 時間が空いていたら、ぼくと向かいあって、箸とオタマで鍋でもつつかないかって言ったんだよ」
「紛らわしいんです! しかも所長、"オタマ"じゃなくて"オマタ"って言ってましたよ!」
「ええ!? 嘘だろう? そんな馬鹿な……」
あ、本当だ。『オマタ』って言ってた。馬鹿だったのはぼくだったようで本当にすいません。
「しかも"つつく"ってのが何かその、イヤらしいんです!」
「誤解だよ、ぼくは二人で鍋を──その、二人で鍋を囲もうと思っていたんだよ」
「……鍋?」
愛理が猫マグカップを持ったまま、顔だけをこちらに向けた。
上目遣いで伺っている。いかん、かわいい。
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