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なし崩し的に事務所で飼うことになったど、誰かの飼い猫かもしれない。
二、三日様子を見てみよう。
「えーっ」
愛理があからさまに不満そうだ。
「飼い主がいたら気の毒じゃない。それを探してあげるのも、僕らの仕事だよ」
報酬を貰ってないから正確には『仕事』ではないけど。
「探すって、どうやってですか?」
「そりゃ、この子の特徴とか手がかりをもとに、聞き込みや調査をしたりかな。愛理には調査報告書を作成してもらって……」
「聞き込みとか調査とか、まるで探偵みたいですね」
愛理が感心したようにうなづいた。
「……僕らの本職って何か知ってる?」
その日はお開きとなり、各々が帰路につく形となった。
さすがにくうたろうは愛理のアパートに連れていくことができず、かといって僕のアパートもペットは禁止だ。
今日は僕が事務所で、一緒に過ごしてあげることになりそうだ。
「所長ズルイ! 私もここに泊まります!」
「いけません! こんなムサ苦しいところに君を泊めるわけにはいかないよ」
「ムサくるしいところで悪かったね! 家賃倍にするよ!」
先ほどルビで会話していた大家さんが、こんな時だけ冷静だ。
「うんっ!? 何ならワタシのトコロに泊まるかい?」
「先生、僕のところでも構いませんっ」
小森さんと前田くんの提案。
愛理とくうたろうを泊めてくれるってこと?
「……いや、気持ちはありがたいけど、僕だって若い女性と猫を軽々しく預けるほど軽率じゃないよ」
「所長」
心のなしか愛理の目が潤んでる。うんいい感じだ。カッコイイぞ僕。
「あー、そうじゃないよ。さすがにワタシも若い女子は気が引けちゃうよ、うん。泊まらせてあげるのは新妻くんだよ、うん。猫ちゃんも一緒にどうだい?」
「先生。ぼくの家は一軒家ですから、先生も猫ちゃんも平気です。なんでしたら、その……猫ちゃんの飼い主が見つかっても、先生ならずっと一緒に暮らしてもらっても……」
先に帰宅された上野さんはともかく、残った男二人を無言で締め出した。
びえるに持っていこうとするのは、何かの策略か?
「アンタらに貸した住居だからねぇ。一人で泊まろうが二人で泊まろうが、二人と一匹で泊まろうがアタシゃ構やしないけど、まっ、邪魔者は消えるさね」
今まで酔っていたとは思えない軽快な身のこなしで、大家さんは探偵事務所を後にした。
……まさか今まで、酔ったフリをしていたのか? うーん本当に、底の見えない人だ。
「……どうします、所長?」
上目遣いの愛理。アルコールのせいだろうか上気したピンクの肌に視線が吸い寄せられてしまう。
どうしようもこうしようも、愛理と一晩明かせたらそれは幸せなことだろう。だけど──
「今日は帰りなさい。くうたろうの世話は僕がするから」
「えーっ。でも外は雪が降ってますから……」
君のアパートは歩いて五分と言ってたじゃないか。
「ニャ~ッ」
「くうたろう~」
「ニャニャ、ニャ~」
「そっかあ、一人で大丈夫? 分かった。じゃあ私帰るから、また明日ね」
「ンニャ~」
……なんか会話している。
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