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「そう……寒いし。二人だけだけど、クリスマスなのに鍋ってのもさ、アンバランスでいいじゃないか。そう思わないかい?」
「……なに鍋ですか?」
すすすっ。と愛理が近づいてきた。
「愛理……くんは何がいい?」
「まさ……所長の食べたいもので、いいです」
まさ? 今まさって聞こえたが何だろう、具材の名前かな?
「肉とか魚とかあるじゃない。何がいい? こう──傾向的にさ」
「じゃあおさかなで」
ぱっ。と愛理の顔が明るくなる。魚で喜ぶとか、猫みたいだ。
「じゃあ事務所も閉めて準備しようか。開けていても今日はクリスマスだし、誰も……こないだろうから」
クリスマスに限らないんだけどね。……いかん、なんか切なくなってきた。
気を取り直し、closedの板をかけようと振り返ったが──。
「所長!」
足がもつれて転びかける。寸前で、愛理が手を引いてくれた。
「おおっと、危なかった。ありがとう愛理」
「! いえ。よかったです。それより、しょ……雅さんは、今日ってなんの日か知ってます?」
「クリスマスだろう?」
「……今日ここに来るとき、マライア・キャリーの曲聴いていたんです。タイトルってご存知ですか?」
二人の手はまだ絡まったままだ。
「ああ、マライア曲は有名だよ、タイトルは確か……」
言いかけて口を閉じる。眼前には愛理の顔。ヤバい近い。まつげ長いな。というかこの子はやはりかわいい。しかし今は仕事中、でもなくて。
様々な思考が頭を駆け巡っていると──愛理はそっと目を閉じ、いかん理性が。その距離は徐々に近づき──
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