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ちらりと愛理に目配せすると、目が合った。
不安は的中しているようで、愛理も真顔でウンウン頷いている。言葉を発さずとも意思疎通はバッチリだ。
……つまり、なんかヤバいってことだ。
「大家さん、ちなみにこれってなに鍋なんです?」
「寒いしクリスマスさね、思い切って 鍋だよ」
「へー……? すいません、聞こえなかったんで、もう一回いいですか?」
「だから 鍋だよ」
おかしいな。どうしても一部聞こえない。
「所長、 鍋ってなんですか?」
愛理か耳打ちしてくる。
いやそれ、僕が聞きたい。
……。
肉も見た限り牛肉的な何かに見える。多分食べられるものだと思いたい。
野菜なんかは見た感じ普通……なのだが、大家さんの持ってきた米だって、『神米』という不思議なものだったからなあ。
◇
「──というわけで、宜しくお願いします」
「なんで自分が呼ばれたかわからないスけど……」
そう言って困惑しているのは、我が新妻事務所の二階で上野クリニックを経営されている、元力士の上野大介さん25歳。
クリニックを閉めて帰ろうとしていたところを、強引に呼び止めた次第である。
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