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「今年も色々ありましたね」
僕がこっそり隠しておいた赤ワインを愛理が見つけ、各々のコップに注ぐ。
高かったんだよそれ。ちょっと泣きそうだよ。
「悪いねえ愛理ちゃん、いいお酒じゃないか。奮発したね?」
上機嫌の大家さん。いやね、奮発したのは僕なんですけどね。
「新妻さん、ごっつあんです」
上野さんはいいですよ。危うく 鍋を食べさせられるところだったからね。
「先生、今年のクリスマスは先生と過ごせて幸せです」
なぜ君がいるんだ前野良輝。君を呼んだ覚えはないぞ。
しかもちゃっかり、赤ワインを飲んでるじゃないか。
「同じワインでも、赤と白でこれだけ顔が違う飲み物ったぁ不思議っちゃフシギだね、うんっうんっ。学会で証明する必要があるな、うんっ」
そして、場になじむ知らないおじさん。
誰だよあんた。
「あの~、今日の営業は終了しておりますけど、誰かの……お知り合いですか?」
愛理がたずね、ちらっと全員の顔を窺うが、みなが首を横に振る。
「出口はあちらになってますから……」
僕が帰任をもって、対応しよう。
「ま、待ちたまえよ新妻くぅん。春には一緒に釣りに行く約束をしていたじゃないか、うんっ」
してない。
年は50代半ばだろうか。スーツの上にジャージを羽織る斬新なスタイルと、少し薄くなった頭が印象的で、見た感じは温和そうなおじさんだ。
「あれ? もしかして小森先生じゃないですか?」
反応したのはトイレから戻ってきた前野良輝だった。
「ん? 君の知り合いか?」
「ええ、ぼくの恩師なんです。この人、こう見えて教授なんですよ」
意外。結構偉い人らしい。
「自己紹介してなかったっけ? うんっ。ワタシね、小森隆。普段は教授。主にケロヨンとブイヨンの関係を研究しているんだよ、うんっ」
なんだその研究。超絶胡散臭い。
「あの、やっぱり帰って……」
「それでね、急に押しかけちゃったモンだからさ、新妻くぅん、ほらっ、これっお土産だよっ」
差し出されたのは日本酒『天狗の舞い』だった。
「どうぞこちらへ」
「しょちょう……」
愛理が呆れている。
「おっと、そちらのお嬢さんにもね、これこれっ。モエットンのシャンパンだよっうん。限定、猫ボトルの……」
「すぐにお茶をお持ちします!」
愛理が給湯室に消えた。
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