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「しかしアンタ、見かけない顔だねぇ。あたしゃこの町長いけど、最近引っ越してきたのかい?」
「ワタシ? そぅなんですよぉ~。ずっと住んでたわけじゃないの。調べたいことがあってこの町に引っ越してきたんです、うんっ。研究の一環というかねっ、うんうんっ」
「ケロヨンだかブイヨンだかの研究かい?」
「それもあるけどねっ、うんっ。この町は不思議な事件が多いからっ、興味があってね、うんっ」
「へぇ~……」
みんなで上野さん特製ちゃんこを食べながらの世間話。
確かにこの町では不思議な出来事が多い。神米だったり、僕が失踪したあの事件だったり、実は、まだ解明されていない謎も多い。
そもそも、僕がこの町で探偵を始めたキッカケは、ある"事件"が絡んでいるのだが──。
「所長、せっかくだしみんなでシャンパンいただきましょうよ」
両手にぎゅっ。と猫形のボトルを抱えて、愛理が嬉しそうに微笑んでいる。
この子のおかげで、本当に救われているなあ。
「そうしようか。あける時は気を付けて……」
「オイラが開けるっスよ。任せて下さい」
元相撲取りの上野さんが、鍋の管理から細かい雑用まで機敏にこなしている。
「あたしにもおくれよ。その、なんだい? 『ジャパン』ってやつ」
大家さん、『ジャパン』ってそれ日本ですから。そんなものを欲しがっているなんてさすが妖怪だ。
でも何だかんだ、家賃をタダにしてもらったり、大家さんにも感謝しなきゃいけないなあ。
「新妻くぅん、聞けば貴重な体験をしているようだね、うんっうんっ。今度ワタシの研究も一つ手伝ってほしいんだけどね、勿論報酬は出すからさっ」
「報酬? 本当ですか? ええ、勿論、お手伝いさせていただきます」
研究か。なんの手伝いだろう。なんにせよ収入があるのはありがたい。
ウキウキしていると、
「先生って普段、本当に探偵の仕事されてるんですか?」
前野良輝の冷静な突っ込み。
「失礼だなキミは、ちゃんと仕事をして……」
思い出しながら「……る……よ?」最後の語尾が小さくなっていった。
確かに探偵らしい仕事といえば、学生時代の同級生、辻本明日香ちゃんから、前原学という男を調査してほしいというものだった。(『嘘の温度。参照』)
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