言えなかった

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ピーポー!ピーポー!  私には言えなかった言葉がある。私は担架に乗せられながら目を動かし養子にした子どもを見る。  (よかったあの子は無事だ)  そう思うと急に体から力が抜けていった。  「義母さん!」  しばらく呆然としていたあの子が我に返ったのか私に走って近づいてきた。  「頑張ってくれ!!死なないでくれ!!!俺はまだ義母さんに恩を何も返せてないじゃないか!!!」  私の手を握りながら懸命に声を掛けてくる。  「頑張ってくれよ」 だが段々と声が遠ざかっていき既に周りの音は聞こえなくなってきて息子の声も遠くなっていく。  (ああ、私は死ぬんだな。この子に本当のことを話せないままに。でも、私が死んだら遺留品整理の時に全てを知ることになるのね。せめて自分の言葉であの子に話したかった。本当に・・・・・卑怯な・・・・・女・・・・・ね・・・・・)  私は体が冷たくなるのを感じながら意識を失っていく。    俺は信じられなかった信じたくなかった俺が握っていた義母さんの手が俺の手から滑り落ちていくのを見ながら。  俺の本当の両親は何年も前に亡くなっている。両親は表ではいい人を演じていたが裏では子どもの俺を殴ったり蹴ったりして虐待していた。だが、ある日の晩に誰かがやってきて両親と言い合いをしている声がしていたが俺は両親の声を聞きたくなく耳を塞いでいたらいつの間にか寝てしまい気づけば朝になって恐る恐る降りていく。  そこには血だらけになって死んでいる両親がいた。  その後、この事件は殺人事件として騒がれたが別の意味でまた騒がれることになる。託児所に俺は入ることなりそこで働いている人に風呂に入れられる時に見られてしまい両親が虐待を行っていたことが世間に明るみになり騒ぎとなる。  「なんでだよ何で義母さんが死ぬんだよ!?義母さん!!!」  救急車の中で叫び声をあげ必死に義母さんの体を揺すりながら呼びかけるが目を開く様子はない。  いや、俺は頭では理解しているもう目を開くことがないと。でも、それでも俺は呼びかけずにはいられなかった。  あれから数日が経ち俺は少しずつ遺品整理を始めた。特に処分に困るようなものはなく恙なく片付けられていくそんな中で一つの日記帳が目に入り開けてみるとそこに書かれてあることに俺は驚愕に目を見開いた。   ○月〇日  私は実の兄夫婦に会いに行ってきた。そこで私が見たのは兄夫婦が自分の子どもを虐待している所であった。  その日はあまりの出来事に頭が真っ白になってしまいバレないようにその場を後にしてしまった。 ○月〇日  数日後、私は意を決して再び兄夫婦の下に向かう。そこで私は二人に前に見たことを伝えた。二人はお前には関係ないことだと言われたが引き下がるわけにはいかない。引き下がってしまえばあの子が二人に殺されてしまうかもしれないと思い警察に通報しようとするが兄に掴まれそうになり思いっきり突き飛ばした。  兄はテーブルの角に頭から強く打ち付け動かなくなりました。義姉さんへと目を向けると義姉さんは恐怖で身を竦ませていたが私は容赦なく義姉さんの首を絞めて殺しました。  私はしばらく呆然としていましたが何とか立ち上がり証拠を残さないように家を立ち去りました。 ○月〇日  あれから数年が経ち私は託児所に預けられているあの子の下に向かいあの子を養子として引き取りました。 ○月〇日  あの子はすくすくと成長していき高校を卒業することが出来た。そして、私も人生に区切りをつけようと思います。あの子に全てを話、私は警察に出頭します。  書かれていたことに俺は言葉が出なかった。  俺はどうすればいいのかその場に立ち続けるしかできなかった。
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