哀愁を漂わせる男

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   いつまでたっても突っ立っている私を見兼ね、男は少し傷んだ肌を片方に引き攣らせ、 「いいから、こちらへ座りなさい」 と、冷たく言い放った。  私が機械人形のように恐る恐る隣に座ると、男が薄い唇で煙草を加えた。深呼吸するかのように吸ったかとおもえば、ため息のようにゆっくりと吐いた。煙が宙を舞い、辺りが嗅いだことの無い、独特な匂いに包まれた。  我慢できず、私が2度3度むせるような咳をすると、男は悪びれる様子もなくただ形式的に「ごめんごめん」と言った。そして愉快そうに煙草を地面に落とした。  あまりの潔さにびっくりしたのと、真新しかった煙草が居心地悪そうにしていたので、無意識に地面に落ちた煙草に手が伸びていた。だが急に高いところから革靴が降りてきて、お尻が焦げた白い棒はぺちゃんこにされてしまった。傷口から出た細かな葉が、風にのって独り歩きする。 「ごめんなさい」  煙草を一本無駄にして申し訳ない気持ちと、煙草に対しての無惨さで頭がいっぱいになった。何故か、いつもは気にならないことが過剰に敏感になって、知らない誰かが乗り移ってるようだった。
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