哀愁の雨が、私を濡らす。

哀愁を漂わせる男

　男と同じ、青いペンキが少し禿げかかったベンチに座る。魔法がかかったように1歩も動けなくなって、緊張と焦りが波のように押し寄せてくる。スカートを掴んで男の返事を待つ。雨で湿ったスカートで、手がほんのり濡れた。

「子どもはそんな風に謝るものじゃあないよ。ほら、顔を上げなさい」

　恐る恐るゆっくり顔をあげると、男が待ってましたと言わんばかりに、薄く笑う。目を細めれば、わずかな皺が刻印のように刻まれて、これまで掴めなかった年齢がちらついた気がした。この顔が年相応だということは薄々感じたが、何故か妙に色気づいていて、最初に感じた落ちぶれは消え去ったように思えた。

「おじょうちゃん、とても綺麗な顔をしているね」

　観察するような声で、低く冷静な雰囲気を纏って小さくこぼした。

「は…?」

　頭を打ったような鈍い痛みが走った。まるでどこかの遊び人が言うような言葉をを、突拍子もなく、あまりにも真面目に言うものだから、思わず聞き返してしまった。