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「とても綺麗な顔をしている。よく出来た表情だ。いや、よく出来た作りものだな」
今度は興味深そうな声だった。そんな中にある嘲笑うかのような声は、どこか寂しさを帯びていて、まるで誰かを痛ましく思うようだった。いや、ひょっとすると自分をも痛ましく見下しているのかもしれない。とても哀れだった。それを美しいと思ってしまう私がいるのも事実で、思い通りに感情を吐き出せなかった。
「どうしてこの顔が、作りものだと思ったんですか」
私の顔は完璧だ。完璧に中学生の顔をしている。進路に迷う、未熟な中学生の顔をしている。いつしか消え去った、喜怒哀楽だって完璧に再現している。私は作りものだ。こんな見ず知らずの男なんかに、見抜かれてたまるものか。
そんな気持ちと裏腹に、男はただ嫌な笑みを浮かべるだけであった。私は余裕をもった顔に怒りと、見抜かれてしまった焦りと、得体の知れない不思議な感情がぐるぐる回っていた。どんな顔をすればいいか、わからなくなってしまった。
「そんな顔をするなよ。せっかくの作りものが台無しだ」
さっきとは取って代わったように冷たくなった顔と、冷たい声が目の前にあった。ぞくっと、背筋になぞるように稲妻が走った。死体を見ているかのようだった。まるで私が、醜くて、亡きものになっているかのようだった。それくらい男が見せるそれは、どんな氷より冷たかった。
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