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二限は、十一号館の八階なので、階段でも楽に到着できる講堂へと僕は向かった。
こちらには、まばらに学生がいる。
ただ、特に親しい人もいないので、僕はいつもの通り、後ろの一角に座った。
もっとも、大学全体を見ても、特に僕には親しい人間がいない……。
僕はコミュ障だ。
誰かが僕に近づいてくる事も、あまりない。それは玲瓏院の名前のせいだと思う。
だから本日も、窓の外を時折眺めながら、誰と話すでもなく講義を受けた。
この講義も中々面白い。
その後、チャイムがなるまでの間、真面目にノートを取っていたら、お腹がすいた。
「冷麺にしよう」
メニューを思い出しながら僕は呟いた。すると、目の前を蚊子が横切った。
「――本当に鬱陶しい。僕に付きまとわないで欲しい」
この教室には、先週も蚊子がいた。僕は覚えている。頭にきて、僕は目の前の蚊子を叩き落とした。なんだか、蚊子の感触が無駄に大きく思えたが、気のせいだろう。なんだか、人の腕を叩き払ったかのごとき存在感の蚊子だった。
――思わず、先週のことを鮮明に僕は思い出した。二限の時、扉の前で振り返った、あの時だ。巨大な蚊子が飛んでいたのである。
もうそんな季節なのかと思ってからすぐに、僕は手首を刺されている事に気づいた。
その後もずっと、蚊子が後を追いかけてきて、あの日も学食まで来た。何度か振り払おうと考えていて、ようやくたたきつぶす事に成功したのが、昼食の時である。
「あのさ、鬱陶しすぎるんだよね。さっきからさ。本当、嫌になる」
なにせ、ずーっと飛んできたのだ。
溜息も漏れたし、不機嫌にならない方が難しかった。
「ご飯くらい、僕は静かに食べたいのに」
俯向きながら、僕は小声で続けた。
「なんていうか、イタイんだよ」
刺された手首には、かゆみと鈍い痛みがある。
しかしようやく、撃退できた。だが……。
「動きがさ」
……ちょっと俊敏すぎた。
虫よけスプレーを使用しようと、あの日僕は一人、誓った。
倒さないと静かに食事ができないなんて、苦痛だからである。
しかし、今週も遭遇してしまった……もう、諦めなければならない季節なのだろうか。
そう思い直し、僕は学食へと向かう事にした。
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