……玲瓏院の一族……

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 実年齢より若く見えるのは、チャラチャラした金髪のせいなのかもしれないし、その瞳の色が緑色だからなのかもしれない。縲は出かけている事が多いから、いつ髪を染め、いつカラコンを入れているのか僕は知らないが、若干彫りが深いせいで、縲はクォーターか何かに見えない事も無い。若い遊人、あるいは海外ゆかりの人……一瞬だけそう思う場合もあるかもしれない、が、多くの人々は、直ぐにその考えを消すだろう。  それは玲瓏院の当主として、顔が知られているからではない。  実際、知られているけれど、初対面でも多分、服装を見てすぐに認識が変わるだろう。  下駄を履いているのもそうだが、縲は常に和装なのだ。  緑色の紋付を着ている。完全に、『若旦那』という印象だ。 「おかえり、紬」  僕の姿を見て、柔和な表情で、縲が微笑した。  大学から帰ってきた所である僕は、小さく頷く。それから、尋ねた。 「どこに行くの? また、キャバクラ?」 「俺は、接待される時を除いて、自発的に行った事は無いけど、どうしてそういう発想が?」 「なんとなく」 「お金がもったいない。絶対に、おごりじゃなきゃ行かないね」  うん。やはり、縲は守銭奴だ。 「心霊協会の役員の集まりだよ」 「今日は一日だよ? 毎月、十日じゃなかったっけ?」 「臨時集会なんだって。面倒な話だよ」  そう言って溜息をつくと、縲は外へと出て行った。  室内に入ると、前々当主である――玲瓏院統真という名の、現在の我が家で、唯一の二文字の名前の祖父が、碁盤に向かっていた。  一応、明確に養父だと言われた事は無いし、縲本人も「俺は父親だよ」というから、僕は実の父のように考えているのだが――その父が縲の他には、僕は紬、そして僕の双子の兄は絆という名前だから、みんな一文字なのだ。  僕は大学生だが、絆は既に働いている。僕から見ると、何とも言えない仕事だけど……。 「おお、紬。帰ったのか」  碁盤から顔を上げて、祖父がこちらを見た。祖父もまた和装だが、こちらには特に違和感は無い。白頭で、ヒゲも白い祖父は、縲に比べると、質素な着物姿だからなのかもしれない。古いドラマの再放送時に、ご老人が抽斗から取り出して着用していたもののような、存在感があまりない装いだ。古いサスペンスドラマの通行人にいそうな、田舎のお爺ちゃん風である。  普段もとても優しいし、いつも囲碁や将棋に負けて、涙ながらに騒いでいるのを見ると、僕は和む。しかし一度、きちんとした玲瓏院に代々伝わる正装を纏い、ビシッと命令を下す姿を目撃した場合は、萎縮せずにはいられない。  何の命令かというと……それがまた、除霊だのといった、オカルトだ……。  それさえなければなぁと、僕は度々思う。しかし、祖父はいつも誇らしそうに言っている。  ――我が、玲瓏院は、その昔、当時の偉人によって、『お主達の霊能力は卓越しているゆえ、今後は、寺ではなく院と名乗るように』と言われたんじゃ。それまでは、玲瓏寺としてこの地を治めておったと古文書にはあるが、認められた。よって、今の玲瓏院家が存在するのじゃよ。  ……僕はその言葉を思い出し、はっきり言って、偉人とやらが余計な事をしなければと、何度も思っている。今、この新南津市において、僕の玲瓏院家は、『一番の力の持ち主』と呼ばれているようだ。巷では、『玲瓏院に逆らうと、この土地では、生きてはいけない』とまで囁かれているらしい。  何それ。これが、僕の率直な感想だ。
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