……火朽桔音という現象……

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……火朽桔音という現象……

「今はやっぱりさ、ほら、妖怪といえどなぁ」  火朽桔音が階段を下りていると、一階のリビングから楽しそうな声が響いてきた。声の主は、分かっている。  ――ローラだ。  女性名を名乗っているが、彼は男性だ。妖怪にも、性別がある。  彼は現在は、絢樫露嬉を名乗っているのだが、火朽も含めて、皆がローラと呼ぶ。その事を、長い付き合いの火朽は、よく知っていた。  もう慣れたという方が、適切なのかもしれない。  耳を傾けていると、ローラの明るい声が続いて聞こえてくる。 「働いて収入を得る時代だろ? 葉っぱを小判に変える時代は終わったんだ」  果たして、吸血鬼であるローラが、狸のように、木の葉を小判に変化させた事があるのか、火朽には疑問だった。だが、さも当然だという風に響いてくるローラの声を耳にしていると、特に言葉を挟もうとは思わない。なので、静かに火朽は耳を澄ます。  ローラが話している相手は、絢樫砂鳥という名前の、(外見は)少年だ。彼の名前にしろ、火朽の名前にしろ、命名したのは、ローラである。砂鳥は、『覚』という妖怪だ。実に安直な命名である。  火朽は、己が初めてローラと出会った時の事を、漠然と思い出した。  彼に拾われ、保護された直後の記憶だ。
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