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大学生活、初日。最後の講義は、必修のゼミだった。
その後、担当教授の夏瑪先生の研究室で雑談した後、同じゼミの男子学生二名と居酒屋へと出かけてから、火朽は自宅へと戻った。そして、遅い夕食を準備する。
もっとも食事は娯楽であるから、いくら遅くなろうとも、ローラや砂鳥が不満を漏らすわけではない。何より、まだ二人は、店舗スペース側の閉店作業中のようだった。
三人で食事の席についたのは、午後十一時に近い頃となった。
座るとすぐに、ローラが火朽を見る。
「――大学どうだったんだ?」
「ええ。皆、良い人でしたよ――……ただ」
火朽は、日中の出来事を回想し、思わず溜息をこぼしそうになった。
「ただ? バレたのか? さすがに、日本屈指の霊能大学は違ったか?」
そんな火朽の反応に、ローラが面白そうな瞳をした。
火朽は、ゆっくりと瞬きをしながら、ローラから事前に聞いていた事を思い出す。
霊能大学こと、霊泉学園大学――そこが、今回、火朽が編入した(事になっている)大学だ。
ローラいわく、『霊能力者を養成する専門の大学』だという。
夏瑪教授にも、同様の事を、火朽は聞いていた。
――この土地は、ある種の蠱毒だ。
しかし、喰らい合うのは、虫や蛇では無い。微弱な妖魔、霊、そういった人ならざる存在が、お互いを捕食し合っている。火朽達三人のように、強い力を持つ者には、特に弊害は無いのだが、この土地がある盆地を囲むように、一度入ると微弱な存在では外に出られなくなる結界が存在しているのだ。
それが、『玲瓏院結界』という名前をしている事も、火朽は聞いていた。
古の昔――遡ると鎌倉時代に、この地域に霊を集めて、定期的に浄化を行うようになったらしい。その結界の維持をしている要たる存在が、玲瓏院家であり、この土地には、いくつかの分家も存在している。
数多の妖魔が喰らい合う結界内部で生きてきた人々は、時代を経るごとに、心霊現象に対して耐性を身に付けるようになったらしい。それもあって、この土地の人間は、俗に言うオカルト現象にも好意的であるし、幽霊を信じている人間も多い。
同様に、結界の存在を知っていても、知らなくても、高い霊能力を持っていると知られている玲瓏院家の人間やその縁者は、一目置かれている。
だが、所詮、人間は人間だ。いくら強いとはいえ、本日もゼミで、玲瓏院紬という人物の横に座っていたが、別段、火朽の正体に気付いた様子など、まるでなかった。
――けれど。
現在火朽を悩ませているのは、間違いなく玲瓏院家の人間、玲瓏院紬である。
火朽は、すっと目を細めた。
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