……玲瓏院の一族……

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「いやぁ、紬という優秀な後継者がいて、玲瓏院も安泰だわい」  祖父の言葉で、僕は我に帰った。  ……双子の兄もいるのだが、周囲は次の当主を僕だと、勝手に決めている。  兄もこれには、反対しない。していいのに。 「紬は、霊能力者として秀でておるからのう。天才としか言えぬな」  喉で笑いながら、祖父が一人で囲碁を始めた。  僕は、曖昧に頷いたが、溜息を押し殺す事に必死だった。  理由は、簡単だ。非常に、明確である。  僕は、心霊現象を信じていない。  だって、幽霊が視えた事も無ければ、嫌な気配を感じた事すらない。  お化けなんているわけがないと、確信している。  この地域にいると、僕が間違っているように思えてくるが、現代日本の科学の恩恵を受けて育っている大部分の人々は、僕と同じ見解だと思う。少なくとも、テレビやネットの有識者(?)達は、そういう考えだろう。  しかし……僕が道を歩いているだけで、そこに屯している浮遊霊が消えるだの、周囲は僕をもてはやす。だが何も感じない僕にとっては、それこそ古くから続く、田舎だから各地に顔もきく、玲瓏院家の次の跡取りである僕に、みんなが気を遣っているようにしか思えない。 「いやぁ、紬が、『霊泉』に進学してくれて、わしも鼻が高い」  祖父が続けたから、僕は目を細めて顔を背ける。  この新南津市に、唯一ある大学が、霊泉学園大学だ。  僕は高校生の頃から、霊泉の付属学校に通っていた。  本当はこの土地から離れて一人暮らしをしたかったけど、猛反対され……それに抗うほど、都会へ行きたいわけでもなかったし、僕は勉強もあまり好きではないから、そのまま持ち上がりで進学したにすぎない。  基本的には、霊泉学園大学には、仏教科と民俗学科しかない。  元々、僕は民俗学に興味があったし、それは良い。  一応、玲瓏院家は大きなお寺を持っているから、仏教科に進まなくても、あとを継ぐために必要な資格は取れる。だから、民俗学科を選んでも、特に反対はされなかった。他の大学に行く事は許されなかったが、学科の選択は許してもらえたのである。 「霊泉を卒業していない者など、ただのモグリじゃからな。絆は兎も角として」  祖父がそう言って笑った声を耳にしながら、僕はすぐ隣のキッチンへと向かい、一人静かに緑茶を用意した。これが、平均的な僕の、日常である。
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