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二限も、二人のそばの席に座り、火朽は講義を聞いていた。
同じ列の窓側には紬がいる。しかし彼が、時岡と宮永に加わる様子は無い。
それは昼食も同様だ。
火朽は二人と共に移動し、この日は四人用のテーブル席を三人で使いながら首を傾げた。
「時岡くんと宮永くんは、いつもお二人なんですか?」
「今は火朽もいるだろ? これからタイミングあったら食おう」
「そーそー。ま、俺と時岡は約束しているわけじゃないけど、てきとーに、な」
二人の声に、火朽は微笑した。玲瓏院紬以外の反応は、こういった好意的なものが多い。
その後、本日のランチをそれぞれ食べた後、火朽にとっては二度目となる、ゼミへと向かう事になった。席が決まっている様子のため、近距離で紬の隣に座る事になる。初日から火朽は考えていたのだが、タイミングを見て、日之出という学生と席替えをしてもらおうと思っていた。
オカルト(有能)とオカルト(趣味)として評判らしい、玲瓏院紬と日之出という学生が二人で座る方が、冷戦が続いている自分と紬が並んで座るより良いという判断である。
ゼミ用の小さな教室に入ると、時岡が全体に挨拶をした。宮永もそうしたので、火朽も同じように挨拶をする。その時、既に座っていた紬は、顔を上げると、小さく会釈をした。火朽単独でなければ、このようにして反応が返ってくる。
しかし、火朽が隣に荷物を置きながら座っても、紬は視線すら向けない。他の女子学生二名が、代わりに火朽へと声をかけた。談笑しながらがも、火朽はあからさまに冷たい紬の態度に苛立ちをこらえる事に必死になる。
その後、夏瑪教授が入ってきて、ゼミが始まった。
――講義であれば、真面目な態度であるし、議論という名の会話が成立するだろうか?
そう考えて、火朽はタイミングを見て、名指しで聞く事にした。
「玲瓏院くんは、どう思いますか?」
すると、教室が沈黙した。全員の視線が、紬へと向く。皆が回答を待っている。他の誰かがこのように聞けば、名前を出されたものが答えるのは、暗黙の了解だ。他の誰かに名前を呼ばれれば、ここまでの間、紬もごく普通に意見を述べてきた。だが――。
「……」
紬は何も言わない。火朽を見るでもなく、気怠そうな眼差しで、周囲を見回し、それからわずかに怪訝そうな顔をした後、夏瑪教授へと視線を向けた。
「僕が付け加えたい事は、特に何もないです」
「そ、そうかね。では、次の切り口として、私が提案したいのは――」
心なしか夏瑪教授も頬をこわばらせたが、彼はそのまま話を変えた。
紬は、講義であっても、明確に火朽を『無視』した。
これには――周囲の学生達も唖然としている。皆が、オロオロとしている。
ゼミの終了後まで、不可思議な空気は教室に残っていた。
だがチャイムが鳴ってすぐに、本日も教授室へと行く事になり、真っ先に紬が出て行ってからは、室内の空気が弛緩した。誰ともなく、大きく吐息している。
「え、っと……火朽、玲瓏院と何かあったのか?」
時岡が歩み寄り、ひきつった笑顔で聞いた。すると、すぐそばの席にいた祈梨が困ったような笑顔を浮かべた。
「う、うん。私もさ、紬くんがあからさまに、その、そのっていうか、うん。答えに詰まっていたようには見えなかったよ……?」
「祈梨、私もそう思うけど、あれは完全にスルーだけど、で、でも!」
「だって、まほろ、今まで紬くんのあんな姿、見たことがある?」
「ないけどさぁ!」
まほろと祈梨がそう話していると、宮永もやってきた。
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