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契機は、先週のゼミの前の事だった。
二限の講義後、夏瑪教授に呼び止められて、昼食の時間に、火朽は教授室へと促された。
「時に、火朽くん」
珈琲を頂いていると、夏瑪教授が火朽に切り出した。
「玲瓏院くんとは、上手くやっているのかね?」
楽しそうな瞳をした、吸血鬼の教授を見て、火朽は左目だけを細めた。
正直な話、無視され続けているままであり、何一つ上手くは行っていない。
既に、玲瓏院紬が火朽を避けて――いいや、嫌っている事は、学科の人々までよく知っている。当然夏瑪教授も話は聞いていたし、火朽もすぐに知っているのだろうなと悟った。
「いいえ」
「何かあったのかね?」
「全く何も。僕が何か彼にとって不愉快な事をした記憶さえありません」
火朽は思い返してみるが、本当に何一つ心当たりが無かった。
特に一度、講義後に食事へと誘い、腕を乱暴に、叩くようにして振り払われてからは、声すらかけていない。火朽側も避ける姿勢に転じたのは、あの日だ。
気を遣って、見ていた時岡という学生が、紬に事情を聞きに行ってくれたのだが、結果として、『生理的に無理』という言葉が帰ってきたのを、後方の席で待機していた火朽も直接耳にした覚えがある。
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