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帰宅した火朽は、表情こそ普段通りの微笑を保ちつつも、非常に苛立ちながら、冷蔵庫の前に立った。彼を苛立たせているのは、玲瓏院紬である。
怒りをぶつけるようい、ナスを乱雑に切りながら、火朽は目を細めていた。
こうして完成した麻婆茄子は、いつもよりナスの形が適当であった。
火朽が食卓にそれを運ぶと、上機嫌のローラと、それを見ている砂鳥がいた。
他には、豚しゃぶのサラダと、ひじきを作った。グラタンもある。
無秩序だが、火朽は気にしない。火朽以外も気にしない。
いつも火朽の作る料理には、統一性が無いからだ。
席に着きながら、ニヤニヤと楽しそうなローラの顔を見て、ついに火朽は視線を落とした。
ローラは何やらこの生活を楽しんでいるらしい。実に羨ましい。
そう思えば、自分自身の現状が、憂鬱になってきて、火朽は遠い目をした。
「火朽さん?」
すると砂鳥が、首を傾げながら、火朽を見た。
それに気づいて、火朽が顔を上げる。
「おかわりですか?」
料理担当の火朽は、まずそう聞いた。だが、砂鳥が小さく首を振る。
「あ、いえ。あの、なんだか暗いですけど、何かありました?」
どこか心配そうな砂鳥を見た瞬間、火朽はもう我慢できなくなった。
それまで誰かに愚痴った事は一度も無かったのだが、気が付くと唇が動いていた。
「……聞いて下さい。ほら、初日に、僕を無視ししてる人がいるって話をしたでしょう?」
「覚えてます」
火朽の言葉に、砂鳥が、大きく頷いた。
「有難うございます。その人がですね……今も僕を無視してまして」
砂鳥の様子に微苦笑してから、火朽は続けた。すると、砂鳥が眉根を下げた。
「辛いですね……」
しかし、火朽は思わず首を振った。
「いや、別に。頭にきますしイラっとはしますが、無視ごときで傷つくような繊細な心を、残念ながら僕は身につけていないので、そこは良いんです」
正直腹は立つが、火朽は無視されてショックを受けるような、細い神経を持ってはいなかった。苛立ちは止まらないが、それは悲しみではなく、怒りだ。しかしそこが愚痴を言いたい一番の部分ではない。
「ただ、ちょっと問題がありまして……」
「問題?」
火朽の声に、砂鳥が聞き返した。
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