……玲瓏院の一族……

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 ――翌朝。  僕は身支度をして、普通にバスに乗った。  大学に行くために、学生として僕は、これを『普通』だと思うけど、周囲の反応は違う。  何せ、僕以外の家族は、みんなが車移動だ。高級車で、専属の運転手さんがいる。  とにかく目立つから、僕は嫌なので、他の学生と同じように通学しているのだが、周囲は『玲瓏院家の次期ご当主がバス通学!?』といった反応をする。名前が一人歩きしている感覚だ。  後ろの席に座り、ぼんやりと窓の外を眺める。  もうすぐ梅雨の季節だ。  今日は十時四十分からの二限に必修の講義があって、十四時四十分からの四限にゼミがある。ゼミも必修の一つなのだが、みんながゼミと呼ぶ講義だ。特定の先生のクラスを希望して、合格したら履修可能だ。それ以外の講義は、全員が必須だったり、選択制で誰でも受講できる。  一限は九時開始で、その後は十分ずつ休憩を挟んで、午前中には二つ、午後には三つの講義がある。合間の昼食の時間は、五十分だ。しかし僕にしろ、周囲にしろ、その全ての時間に授業を受ける予定の学生は、ほとんどいない。  大学も三年生になった今、絶対に出なければならない必修と、自発的に受けたくなるゼミ以外、僕は単位もほとんど取り終わっているし、大学生活は気楽だ。  そう考えていると、バスが大学構内まで進み、坂の上のターミナルで停車した。  こうして今日も、僕の大学の一日が始まる。  二限の担当も、僕のゼミの指導教授である、夏瑪夜明先生だ。  教授なのだから、それなりの年齢だとは思うのだが、見た目は三十代半ばに思える。その件に関して、先生は、「私は吸血鬼だからね」といった冗談を言う。気さくな所が僕は好きだ。  なお、周囲には、夏瑪先生が本当に吸血鬼だと信じている人も多い。いるわけないのに……。  例えば、僕と同じ列に座っている、南方や、楠原といった、ゼミが一緒の同級生も、それは変わらない。彼女達はいつもそろって講義に出ている。  南方も楠原も、夏瑪先生のファンなのだという。二人のように女の子も、そして純粋に講義が好きな僕のような男も、夏瑪先生の周囲には沢山いる。それを見ると、他の教授に指導を受けている同級生達は、「信者だな」と口にするが、実際に先生の講義は面白いのだから仕方がない。  そう考えながら、右手でペンを回した時、不意に南方の囁き声が耳に入った。 「ねぇねぇ、祈梨。火朽くんって格好良いよね?」  祈梨というのは、楠原の名前だ。素知らぬふりで一瞥すると、楠原が大きく頷いていた。 「わかる。まほろとは、趣味が合いすぎて辛い。辛いよ! 火朽くん良いよね」  まほろというのは、南方の下の名前だ。  二人はキラキラした瞳で、何やら――イケメンについて語っているようだった。  いつもであれば、彼女達は夏瑪先生について、小声で雑談しているから珍しい。
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