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「ええ。見かねた夏瑪先生が、僕と彼を同じ班として、共同発表を企画して……下さったのは、分かるんです。有難い配慮ですが、余計なお世話で――というのは兎も角、それで、今日の午後に打ち合わせをする事になっていたんです」
思い出しながら、火朽は言う。砂鳥は、頷きながら耳を傾けている。
「僕は時間通りに行き、彼も時間通りに来たんですが……僕が話しかけても全部無視で、一度も視線も合わず……その後、二時間経過した時、彼がおもむろに立ち上がり、夏瑪先生の教授室へと行き……」
火朽の脳裏に、紬の姿がよぎった。その後は、夏瑪教授から聞いた話から、想像した紬の坑道が勝手に浮かんできた。
「そして一言。『すっぽかされました。僕、帰って良いでしょうか?』と……言ったらしいんです。部屋にそのままいた僕に、直後、夏瑪先生から連絡があって、発覚しました。僕が教授室に着いた時には、既に彼は帰路についていましたよ」
陰鬱な気分になりながら、火朽が言うと、砂鳥が驚いたように声を上げる。
「へ?」
「僕にはもう、彼の気持ちがまるで分かりません」
どんよりとした気分になりながら、火朽は肩を落とした。
次第に怒りを通り越して、虚しさが浮かんでくる。
だから一度溜息をついてから、静かに続けた。
「いくら僕でも、学業に支障が出るのは、ちょっと……そろそろ許容できないと言いますか」
何せ、勉強をするために、大学に通っているのだ。火朽はそう考えて、目を細めた。
「火朽さん……火朽さんは、悪くないです」
すると砂鳥が、必死な様子でそう言った。そちらを一瞥してから、火朽は大きく頷く。
「ええ。僕の悪い部分は、我ながらゼロです」
どう考えてみても、己には悪い所がないと、火朽は確信していた。
「今悩んでいるのは、どのようにして、八つ裂きにしてやりたいこの心境を抑え、人間の法律的な意味合いで――合法の範囲内で復讐してやるかというドロドロとした内心の收め方です」
そのまま、気づくとうっすらと笑っていた。苛立ちが再び最高潮に達していた。
「ファ、ファイトです……!」
それからどこか引きつったような砂鳥の応援の声を耳にしたようにも火朽は思ったが、その後の食事の最中は、ひたすら紬について考えていた。
許せない――そう、一人思っていたのである。
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