……ブラックベリーの霊能学……

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……ブラックベリーの霊能学……

 やると決めたら、徹底的にやるタイプの火朽は、その後、大学だけではなく、この地方都市における『普段』の玲瓏院紬についても観察する事に決めた。  傍から見れば、どこからどう見ても、復讐の機会を見極めようとしている風だったが、あくまでも火朽の意識としては、『友好を深めるきっかけ作り』である。本人も、半分程度は、復讐の仕方を考えているので、このストーカーじみた観察行為が、決して明るいニュアンスを含んではいないと、どこかで理解してはいた。  しかし――二度ほど、偶然を装って街で声をかけてみたが、その時すらも、無視された。  苛立ちが募るままで、火朽は週末を迎えた。  そしてスーパーへと、買い物に向かうことにした。  大学生活に支障が出ないように、食材の買出しは週末に行う事にしている。  なので、この日は意図したわけではない。  たまたま、そう、たまたま――スーパーへと向かう途中で、前から歩いてくる紬を見つけたのだ。偶然の遭遇だ。しかも相手は、珍しく自分の方を見ていた。これでは、逆に挨拶をしない方が変だろう。そう考えたのが、まず一つ目だった。  もう一つは、火朽が見る限り初めて、紬が他者と歩いていたので、声をかける気になった。並んで歩いている青年は、火朽をしっかりと見ていて、目もあった。  人間の”能力”には、それぞれ独特の気配や色がある。  紬にどこか似た色彩を持つ青年を見て、火朽は親戚だろうと判断した。二十代後半くらいの青年は、和装で袈裟を身につけている。住職のようだから――進行方向から考えて、絢樫Cafeの前の一本道を進んだ所にある、藍円寺というお寺の僧侶だろうと判断する。  火朽は、『藍円寺享夜』という住職の名前を聞いた事があった。理由は、マッサージ側のリピーターだからである。度々ローラが口に出す客の名前だった。  玲瓏院家の分家が藍円寺家であるとも、耳にした事があった。  食卓では最近、火朽には全く興味のない藍円寺情報が、流れている場合が多いからだ。  それよりも重要なのは、『親戚である』という部分だ。  さすがに年上の親戚の前では、無視をしないかもしれない。  火朽はそう判断し、通りかかった紬と藍円寺の前で、一歩早く立ち止まった。 「あれ? 玲瓏院くん? おはようございます。偶然ですね」  繰り返すが、今回に限っては、本当に偶然なのだ。  柔和な微笑と、穏やかな声を、努めて構築し、火朽はそう声をかけた。  すると、藍円寺という青年が立ち止まった。  そして黒い切れ長の瞳を、紬に向ける。視線を向けられた紬もまた、どこか不思議そうな顔で立ち止まった。 「享夜さん?」 「――知り合いか?」  藍円寺が、火朽と紬を交互に見ながら聞いた。  しかし紬は首を捻っている。 「は?」  その反応に、内心で溜息をつきながら、火朽は続けた。 「大学で同じゼミの、火朽と言います」 「火朽……くん、か」  藍円寺が困ったように呟くと、紬が驚愕したような顔をした。 「享夜さん? 僕は、そんな人の存在を認めません」  紬が叫ぶように言った。すると、藍円寺が息を飲んだ。  そして、火朽を二度見した後、勢いよく錫杖を握り締めた。
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