125人が本棚に入れています
本棚に追加
見れば、その手が震えている……全身を硬直させている藍円寺は、よく見ると、肉食獣のような俺様風の外見に反して、どこか涙ぐんでいた。
「い、行くぞ、紬」
「はぁ。立ち止まったのは、享夜さんじゃ?」
「いいから! 早く来い」
その後、走るに近い早足で、藍円寺が歩き出した。
紬も追いかけていく。
それを見送り、火朽は腕を組んだ。
「ローラが気にいるだけはあって、藍円寺という人間には、僕の正体が分かったようですが……まぁ、問題はないでしょう。何か問題が起きれば、ローラが暗示をかけてくれるでしょうし」
火朽にとっての問題は、紬の方だった。
紬はいつも通り火朽を無視しているだけだったわけであるが、動揺も恐怖も何も感じ取れなかった。ただの無関心。そんな表情をしていた紬を見ると、火朽は気が重くなる。
「人間でないから嫌われている、のであれば、まだ対処のしようもあるのでしょうが」
どうやらそうではないらしいから、難題だったのである。
最初のコメントを投稿しよう!