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教授室には、よく院生も顔を出す。
ゼミ後に顔を合わせる、ゼミ以外の人物といえば、そうした先輩くらいのものだ。
大学院に他大から来た人物ならば、僕が知らない可能性も高い。
――きっと、火朽という人は、大学院生なのだろう。
そう考えながら、僕は食後、ゼミに臨んだ。このゼミは、持ち回りでレジュメを用意し、十五分程度発表してから、ディスカッションをするという、文献研究を主体とした授業内容だ。
本日の発表者は日之出くんである。
彼は……男なのだが、長いストレートの銀髪をしている。
前髪が長すぎて目元は見えない。さらに、女子学生のように、化粧をしている。
真っ白いファンデーションに、普通の女子がつけているのは見た事が一回もないような、真紅の口紅をぬっている。女装ではない。彼はこの外見が趣味らしい。見た目からして、奇を衒っている彼は、魔術が趣味だそうだ……。
本日彼が選んだテーマは、古典的怪奇小説の中で題材にされた中世の魔術について、らしい。一応民俗学のゼミなのだが、僕は常々、日之出くんは他の大学の文学部で、幻想文学か何かを専攻するべきだったんじゃないのかなと考えている。
何かと(見た目からして)不気味な日之出くんではあるが、僕も含めて、もうみんな慣れてしまったから、誰も何もツッコミを入れたりはしない。
このようにして、ゼミの時間は流れていった。
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