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ゼミの終了後、本日は夏瑪先生の教授室にお邪魔をしようと考えていたら――僕のスマホが音を立てた。画面を見ると、トークアプリで兄から連絡が来ていた。
『ゼミが終わったら、校門まで来い』
いつもと同じ、命令口調である。僕と兄の絆は、一卵性双生児だから、顔こそ瓜二つなのだが、絆は僕とは異なり、一言で表現するなら、”俺様”だ。
まぁこの新南津市は、田舎の方言とでもいうのか、比較的乱暴な口調の人が多い。だから誰も咎めないが、僕から見ると、特に絆は酷い。性格的にもだからなのかもしれない。
同じような口調で、一見すると怖い人物ならば、例えば僕の親戚の藍円寺家の、享夜さんや昼威さんも負けてはいないが、絆は一味違う。兄はプライドが非常に高い。しかしそれを知るのは、近しい者のみだ……。
返信してから、僕はバスターミナルとは逆方向にある、大学の正門へと向かった。
すると、人集りが出来ていた……比較的、いつもの事である。
「KIZUNA様……!」
「格好良い……!」
ざわざわと、そんな声が溢れている。正門の前の黒塗りの車、玲瓏院の車ではなく、マネージャーさんの車の前に立ち、微笑しながら多くの人に囲まれている絆を見て、僕は思わず半眼になった。
僕はどうかと思う兄の仕事――それは、芸能人である。
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