……玲瓏院の一族……

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 絆は、『KIZUNA』という名前で、高校生の頃からモデルを始め、卒業を契機に、本格的に芸能人になった。本人は俳優志望らしいが、いわゆる『オカルトタレント』として、絆は心霊系のバラエティ(?)番組に、引っ張りだこである。  キャラ作りだそうで、柔和に笑っている現在も含めて、兄は普段、とっても猫かぶっている。なんだかなぁ……極悪な性格がバレたら、きっと週刊誌にすっぱ抜かれる事だろう。いいや、そこまでは売れていないから、パパラッチも追いかけないかな?  そう考えつつ、僕は兄の元へと向かった。  すると兄は、僕に声をかけてから、周囲に手をふり、先に車へと乗り込んだ。  続いて僕が中へと入り、扉を閉める。  すると後部座席で、絆がそれまでとは異なる無愛想な表情になり、僕を一瞥した。  腕と足を組んでいる兄を、僕も同様に見る。  目が合うと、溜息をつかれた。 「相変わらず、紬は霊能力が高すぎて、浮遊霊のひとつも寄せ付けていなくて尊敬する」  ……。  兄の言葉に、僕は俯いた。僕には、そんな自覚はない。  そもそも、浮遊霊なる存在が、この世にいるとは考えていない。  だが、絆は『視える』らしい。幽霊が。僕は、藍円寺の昼威さんが経営している心療内科へ行くべきだと思うが――この土地では、絆の方が正しいらしい。だったら、視えるのだし、オカルトの代表格である玲瓏院は、兄が跡継ぎになったら良いと思うのに、絆はいつも首を振る。  芸能活動ができなくなるから、ではない。  兄いわく、力が強い僕こそが相応しい、らしい。  これは周囲の家族も、同じ意見だ。  いやいやいや。ありえない。だって、僕は何も視えないし、感じないし、そもそも幽霊なんかいないと思っているのだから。 「実は、次のロケ現場なんだけどな……夏に放送される心霊特番用の撮影現場。俺には難易度が高すぎてな。紬なんかに頼むのは、心から嫌だ、が――そ、そ、その。一緒に来て、浄霊を頼みたいんだ……」  絆の声に、僕は遠い目をして、なんとか口元にだけ、笑みを形作った。 「具体的には、僕は何をしたら良いの?」  僕が尋ねると、兄が腕を組んだ。一般的な私服の僕とは異なり、洒落た服装である。 「い、いつもの通り、お前はそこにいてくれたら、それで良い。紬がいるだけで、勝手に消えていくからな。お前は、歩く心霊現象掃除機だ」   溜息をこらえつつ、僕は頷いておいた。 「よろしくね」  聞いていたらしい、絆のマネージャーの相坂さんが、信号で停止した時、僕に振り返ってそう言った。美人のお姉さんだ。目の保養だから、僕は彼女の言葉を断る事が出来ない。数少ない、僕に優しい女性だ。
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