……玲瓏院の一族……

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 その日は、そのままロケ現場に連れて行かれ、視えるという絆の……台本を暗記したものなのか、僕には事実なのか不明なセリフの数々を聞いた。そして、絆が実際にロケ現場に足を踏み入れる前に、僕は中へと入り、適当に歩いて回った。それから絆に合流すると、安堵したように兄が吐息した。 「良かった。俺では、あの状態の中はとても歩けなかったからな。これで安心して撮影ができる。完璧な浄霊だった」  そんな事を言われても、僕はただ、廃墟を徘徊してまわっただけのような気分だ。  お散歩に等しい。  こうして、僕はその後、他の待機スタッフさん達と一緒に、何の変哲もないロケ現場の各地で、神妙な顔をしながらお教を唱える絆の姿を、カメラ越しに見守った。  比較的これも、僕にとってはよくある日常だ。  ――この日までの僕は、今後もこんな生活が続くのだと、漠然と信じていたものである。
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