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五目煮豆
「お帰り」
アパートの玄関前で待っていた、彼女の幸ちゃん。白のダウンコートの中に何枚重ね着しているのか分からないが、達磨みたいにまん丸だった。
「ただいま。ごめんね、わざわざ」
「ううん。お疲れさま」
幸ちゃんとは2ヶ月後に結婚する予定だ。つい二週間前にばあちゃんに紹介したところだった。
部屋に入ってすぐに電気ストーブを点ける。「ボッ」と小さな音と共に温風が出てくると、幸ちゃんはダウンと、その下のカーデガンやベストを脱いだ。
そのまま座ることなく台所に行った彼女を追って、僕も皿を出したりと手伝いをする。
「泣いた?」
「泣いた」
「よしよし」
背の低い幸ちゃんが手を伸ばしてきたので、身長175センチの僕は屈んだ。これでようやく頭を撫でてもらえる。
ぽふぽふと頭の上で弾んだ手のひらが優しくて、たった二回で終わってしまったのが不満だった。
幸ちゃんは三つ年上。時々こうやってお姉さん風を吹かせて甘えさせてくれる。
彼女は五目煮豆の他にも唐揚げやチャプチェなどおかずを持ってきてくれていた。
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