……その後の日常……

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「僕の記憶する限り、吸血鬼クラスの強力な怪異は、力を封じられる事はあっても、消滅はしないよ」 「な……力を封じられる? そ、そのあとは? みんなで除霊をして回ると前に聞いたぞ。というか、朝儀は、この方面の知識があったのか? どうして今までバイトをしなかった……」 「う……んー、と、斗望もいるからね! まぁ、玲瓏院一門に近づいた妖は除霊優先度が早いとは思うよ」  朝儀はそう言うと、笑顔のままで顔を背けた。本日斗望は、瀧澤教会のクリスマス会に、芹架と共に遊びに出かけている。ふたりの幼なじみである少女が主催しているのだ。 「とにかく、準備をするぞ」  仕切り直すように昼威が言い、法具を並べる。朝儀が手伝い始めた。すると、袈裟をつけた正装姿のままで、享夜が一人震え始める。泣きそうになっている弟を見て、昼威は胸がえぐられそうになった。 「享夜、経文を読まないとならないんだ。それが、藍円寺の人間の務めだろう。医者の俺よりも、住職のお前の務めだ」 「……」 「享夜……気持ちは分かるけど、僕達は、あくまでも分家だし、人間だし……ね?」  諭すように朝儀が言う。すると、享夜が錫杖をその場においた。 「無理だ」 「享夜、お兄ちゃん、怒るよ?」 「朝儀に怒られても何も怖くない。俺は、ローラに言いに行く!」 「子供みたいなこと言わないの! 斗望の方が大人だよ?」  そんな二人を見ていて、昼威は額に手を添えた。そして――ポケットに朝から入れておいた車の鍵を取り出した。 「今から行ったとしても、徒歩ならば、俺と朝儀が発動している間には、絢樫Cafeにはつかないんじゃないか」 「な」 「――享夜。共存できる妖には後ほど連絡が行くらしい。大人しく結界を張っていけ」 「……ダメだ。俺は、ローラが心配だ。結界なんてはれない。ローラを逃がさないと」 「ならば、お前が苦しんだような頭痛や肩こりに悩まされる多くの一般市民は見捨てるのか?」  昼威が言うと、享夜が息を飲んだ。そして――それから俯いて唇を噛んだ。 「ローラが除霊されてしまうなら、俺も一緒に死ぬ」 「「……」」  その言葉に、再び昼威と朝儀は顔を見合わせる。そうして、昼威は、ため息をついてから、車の鍵を投げた。 「藍円寺の住職は、職務を投げ出したと告げ口しておくから覚悟しておけよ」 「昼威!」 「しょうがないなぁ。享夜の代わりに、僕がいつもよりも頑張るよ……ただ、もしこのあと、戦う事になったら容赦はしないからね。僕、享夜ごと殺れるタイプだからね」 「朝儀……――二人共、有難う」  こうして……鍵を受け取り享夜が走り出した。  玲瓏院結界が再構築されたのは、そのすぐ後の事である。
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