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「うあ」
もがくように縲が腕を動かしたのはその時だ。
「やぁあああっ」
気がついた時には、絶叫していた。その熱が、快楽だとやっと理解した。
縲は、元々が、祓魔師(エクソシスト)である。性的な接触は厳禁であるし、自慰すら禁止である。もし、一度でも禁忌を犯せば、聖職者はその力を失う。よって、幼少時から禁欲訓練を施されてきた。訓練とは言うが、実際には洗脳じみた思考と肉体への人的な暗示や条件付けが幾重にも行われてきた。だから、縲はその感覚が快楽であると気づくのに、少しの間――遅れた。
「あ、あ、ああああああああ」
よって、襲ってきた感覚は、縲にとっては初めてのものでもあった。常人であっても強すぎるような熱に、純粋な肉体は抵抗力を持ってはいなかった。気づいた時には、前が張り詰め、全身にびっしりと汗をかき、呼吸が苦しくて舌を出して呼吸をしていた。綺麗な緑色の瞳が涙に濡れ、白い頬に涙が伝う。
――果てたい。
未知の感覚ではあるはずなのだが、縲は自身の肉欲を正確に理解していた。
体を揺らし、必死に悶える。瞬きをする度に、涙が溢れる。
「どうだね? 人間らしい、性欲――今までの自分がいかに異常か理解できるだろう? 皆、この快楽に虜だ、人間は。それを知らないで三十年を超える生を歩んできた異常さを嘆いたほうがいいのではないかね?」
ワイングラスを置きながら、夏瑪が失笑した。そして立ち上がると、縲の前に立つ。それからそっとその指先を伸ばして、縲の頬に触れた。
「いやあああああ」
その感触だけで体が熔けて、縲は泣き叫んだ。夏瑪に触れられるだけで、全身が快楽に絡め取られ、何も考えられなくなっていく。自分の足で立つ事が限界になると、一気に頭上の鎖に体重がかかり、手首が痛んだ。
「玲瓏院結界を解くというのであれば、楽に殺してあげよう」
「あ、ぁ、ぁあああ」
「存分に快楽を味あわせてあげよう。この極上の血液のお礼にね」
夏瑪がぺろりと縲の首筋を舐めた。瞬間、全身に快楽が染み込んできたものだから、縲は目を見開いた。
「解くというまでは、少し辛い快楽を味わってもらうことになるだろうがね。死ぬまでの間――自殺したくなるほどの快楽だ。もっともエクソシストの君に、自決の選択肢は存在しないだろうがね。自殺は大罪だったはずだ」
馬鹿にするように笑ってから、夏瑪が縲の首筋を噛んだ。強すぎる快楽が縲の体を突き抜ける。
「もう君は、私の精を受け入れなければ、果てられない体だ。しかしそうすれば、縲さんは力を喪失するね。幸い私は、この程度の結界では力の喪失は無かったが――外には残念ながら出られなくなってしまったよ」
その言葉を耳にした時、既に縲に理性は残っていなかった。
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