……玲瓏院結界……

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 ――無事に結界が発動されてから……丸一日が経過した。本日はクリスマスだ。  昼威は朝儀と二人で、冬の藍円寺の居間にいた。斗望は、本日も御遼神社の芹架の元へと遊びに出かけている。滝澤教会のクリスマス会の後から、泊まりに出かけたのである。 「困ったよね」 「……そうだな」  二人は、ここにいない享夜について心配……は、あまりしていなかった。享夜に関しては居場所が分かりきっていた。自発的に、『ローラを守る』と意気込んで、絢樫Cafeに寝泊まりしている事は、周辺を監視していた心霊協会の者達に聞くまでもなく、昼威と朝儀には連絡があったからだ。なので、享夜に関しては敵の手に落ちたわけでもなければ、危険な状況にあるわけでもないのだろう。  寧ろ、昼威と朝儀は家族であるから、相応に心配していたが、ローラが除霊のバイトの手伝いをしていた関係で、心霊協会の面々は、除霊除外対象――というより、強すぎるから取り置きで近寄らない対象として、絢樫Cafeのメンバーに関しては認識しているようだった。  よって困っているのは、享夜が帰宅しない事では無かった。 「……一応僕はさ、縲とは長い付き合いなんだよね」 「そうなのか? 縲さんは入婿だし、朝儀と年は近いが、この土地で顔を合わせたのは、ごく最近じゃないのか? お前は小学時代から遠方に出ていたのだし」 「その遠方で、僕と奥さんと縲はね、一緒だったんだよ」 「――とすると、縲さんもまた、怪しい公務員だったという事か?」  昼威が半眼になり胡散臭そうなものを見る眼差しに変わると、大きく朝儀が頷いた。 「考えてみると、僕と縲が最初に職場で同じ班になったのは、ある吸血鬼の対策班を作ったからなんだよね。それで、その契機となった吸血鬼を玲瓏院結界の内側に閉じ込める事が、縲の悲願だったみたいではあるよ」  それを聞き、昼威は腕を組んだ。以前、縲が含みのある口調で除霊について話していた事を思い出す。昼威まで、その対象がローラではなさそうだという事実に安堵していた。やはり、見知った相手が殺害――除霊対象になるというのは、気分の良いものではない。 「それが、霊泉の教授なんだったか?」 「そうみたい」  二人が現在困っているのは、今回の結界再構築の指揮を執った、縲が失踪してしまった事が理由である。現在はご隠居が、『疲れたので縲は休んでいるため、代わりに指揮を執る』として正面に立っているため、縲の不在を知るのは、ごく一部の者だけだ。玲瓏院一門――血縁者や弟子のみである。 「その吸血鬼も出られなくなったのか?」 「夏瑪教授の場合はテスト期間も終わっていて――居場所が分からないから、結界の内外のどちらにいるのかも不明なんだよね」 「外にいるのならば問題は無いだろうが――出られないのであれば、無力化されているという事は?」 「仮に力を失っていれば計画通り対処するけど……内側にいて、出られないけれど、力だけを保っていたら、縲を攫った可能性がある。もしもその状況だったら、僕達は、かなり厳しいかも知れない」  朝儀の声に、昼威は腕を組んだ。  玲瓏院本家の人々は、表立っては動けない。この事実が露見すれば、混乱が広がるはずだからだ。そこでご隠居からの指令として、朝儀と昼威に、縲の捜索依頼があったのは、今朝の事である。 「手がかりが何もないからなぁ」 「朝儀……何か、怪しい公務員時代には、特殊な連絡法などは無かったのか?」 「そんなもの無いよ」 「妖の事は妖が詳しい――とするならば、同種の吸血鬼であるし、絢樫Cafeにでも聞きに行くしか無いな。俺は嫌だが」 「彼方さんの話だと、ローラという吸血鬼と夏瑪夜明教授は知り合いらしかったから、僕もそれしかないとは思ってるんだよね――だけどさぁ」  溜息をついた朝儀は、両手で湯呑を支える。
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