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「なんか呆気なくない?」
と紘介が言う。それを聞いて新は
「確かに、もう少し焦った事態であってもおかしくないと思うんだが…。」
2人の会話を聞きつつ、俺はスタジアムに入場してからの一連を思い出していた。何か見落としていることはないかと…。すると、そこに紘介が最初に連れてきた警備員が近づいてきた。
「君たちに少し聞きたいことがあるんだが。」
「あ、警備員さん。さっきはありがとうございました。」
と紘介がお礼を言う。
「そんなことはいいんだ。それより、君らはロッカルームの見学で案内されたんだよな。」
「そうです。俺らは横浜マリノスのロッカールームを見学する予定でした。今考えてみれば、やっぱり俺らだけってのはおかしいよな。」
と俺が答える。するとその警備員さんも、
「そこなんだ。確かに今日その企画はあったが、それは13時だ。」
「え?でも、俺らは12時30分に集まってくれって言われたよな。」
「そんなはずはないんだ。それにここはマリノスのロッカールームですらない。」
「確かに。試合前のロッカーにしては物がなさすぎると思ってた。見学用の場所なんだと勝手に納得していたけど。」
と新が言う。確かに改めて見渡すとロッカーにはほぼ使われた形跡がない。
「そうなんだ。ここは古いロッカールームで今はほとんど使われてない。選手が1人になりたい時とかに使ったりはするがそれだけだ。」
「じゃあ、あの係員の女性は最初から俺らに時間をずらした上で伝えて、誘導したってことか。」
と俺が言うと、紘介がすかさず聞いてくる。
「なんの為に?」
「それが分かれば苦労はしないさ。」
「俺らがDCってこと知ってたのかな?」
「まさかな。」
と新が冷静に紘介と会話をする。
「そもそも、チケットにロッカールーム見学は13時集合で30分間と書いてあったろ。」
と警備員さんが指摘する。驚いて紘介が慌ててチケットを見ると、
「ほんとだ…。」
と愕然としている。俺らも整理券を貰ってそれしか見ていなかったのと、入場以外チケットは席番号を見る以外は全く気にしていなかった。
「紘介、お前は最初から持ってたのに気づいてなかったのか?」
と新が聞くと、
「浮かれちゃってて…。何時からあるとか気にしてなかった。それに係員の人言われたから…。」
と答えて、勢いよく謝ってくる。
「まぁ、今はもうそんなことはいいさ。」
その時、会場が一層大きな歓声に包まれていた。
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