The beginning of the tragedy

6/6
前へ
/79ページ
次へ
「なんか呆気なくない?」 と紘介が言う。それを聞いて新は 「確かに、もう少し焦った事態であってもおかしくないと思うんだが…。」 2人の会話を聞きつつ、俺はスタジアムに入場してからの一連を思い出していた。何か見落としていることはないかと…。すると、そこに紘介が最初に連れてきた警備員が近づいてきた。 「君たちに少し聞きたいことがあるんだが。」 「あ、警備員さん。さっきはありがとうございました。」 と紘介がお礼を言う。 「そんなことはいいんだ。それより、君らはロッカルームの見学で案内されたんだよな。」 「そうです。俺らは横浜マリノスのロッカールームを見学する予定でした。今考えてみれば、やっぱり俺らだけってのはおかしいよな。」 と俺が答える。するとその警備員さんも、 「そこなんだ。確かに今日その企画はあったが、それは13時だ。」 「え?でも、俺らは12時30分に集まってくれって言われたよな。」 「そんなはずはないんだ。それにここはマリノスのロッカールームですらない。」 「確かに。試合前のロッカーにしては物がなさすぎると思ってた。見学用の場所なんだと勝手に納得していたけど。」 と新が言う。確かに改めて見渡すとロッカーにはほぼ使われた形跡がない。 「そうなんだ。ここは古いロッカールームで今はほとんど使われてない。選手が1人になりたい時とかに使ったりはするがそれだけだ。」 「じゃあ、あの係員の女性は最初から俺らに時間をずらした上で伝えて、誘導したってことか。」 と俺が言うと、紘介がすかさず聞いてくる。 「なんの為に?」 「それが分かれば苦労はしないさ。」 「俺らがDCってこと知ってたのかな?」 「まさかな。」 と新が冷静に紘介と会話をする。 「そもそも、チケットにロッカールーム見学は13時集合で30分間と書いてあったろ。」 と警備員さんが指摘する。驚いて紘介が慌ててチケットを見ると、 「ほんとだ…。」 と愕然としている。俺らも整理券を貰ってそれしか見ていなかったのと、入場以外チケットは席番号を見る以外は全く気にしていなかった。 「紘介、お前は最初から持ってたのに気づいてなかったのか?」 と新が聞くと、 「浮かれちゃってて…。何時からあるとか気にしてなかった。それに係員の人言われたから…。」 と答えて、勢いよく謝ってくる。 「まぁ、今はもうそんなことはいいさ。」 その時、会場が一層大きな歓声に包まれていた。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加