……本編……

10/75

89人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
「いらっしゃいませ」 「――テイクアウトも受け付けているか? マリアージュのケーキが、ここでも買えると聞いた。マリアージュだと、一か月前から予約が必要でな」 「テイクアウトですか? 申し訳ありません、やってないです……」  やっても良いのだが、僕にはラッピングのスキルがない。  僕の言葉にメガネの位置を直しながら、昼威先生が困ったような顔をした。 「なんとか、そこのブッシュドノエルをまるごとくれないか?」 「――箱に入れるだけで良いなら、構わないんですが。包装が……」 「箱だけで良い」  率直に僕が言うと、昼威先生が大きく頷いた。ちなみに、僕はほとんど話した事がない。一度、藍円寺さんについて、昼威先生がローラの所に「餌にするな」と言いに来た時に、僕はそばにいただけだ。  だけどどうして焦っているのだろうか? そう考えて心を読んでみると、納得した。本日は、御遼神社の跡取り神主さん――御遼侑眞さんの誕生日らしい。本日は救命救急のバイトがお休みなので、遊びに行こうとしていて、昼威先生はそれを思い出したようだ。  そう言う事ならばと、僕はケーキを箱に入れた。  それにしてもローラが契約を暗示で取り付けてきた、マリアージュというケーキ屋さんは、本当に大人気らしい。 「助かった」  昼威先生は、箱を受け取ると、すぐにお店を出ていった。僕は今後、テイクアウトに備えて保冷剤などを用意したり、ラッピングの仕方を覚えたりしようと、一人心に誓った。  その内に七時になった。  一応閉店時間は、八時と決めているので、そろそろ店じまいの準備をしても良いだろう。そう考えながら過ごし、七時半から僕は、菓子類やケーキの数を確認してしまい始め、閉店してからは、フロアやトイレの掃除を始めた。九時にはすべての作業が終わり、こうして再オープンの初日を僕は無事に乗り切ったのである。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89人が本棚に入れています
本棚に追加