……本編……

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 実際には、七時半を過ぎたらお客様の状況次第で閉店作業をしているのだが、僕は適切だと考えている。少しずつ、人間のお客様も増えてきた所だ。 「これからは、深夜二時から四時も開けろ」 「そんな時間にカフェにくるお客様っている? BARでもやるの?」 「違う。客層を広げるためだ」 「客層? 違うって……お客様が来ないのに?」 「人間以外が来やすいだろう? 丑三つ時の方が、何かと。この国では」  ローラはそう言うと、僕が用意した夕食を見た。  最近は火朽さんが大学の友達と食事をする日が増えたから、僕が作る事もある。 「俺達にとって、人間の取る睡眠の真似事は、娯楽だろう?」 「まぁね」  二人で納豆おろしオムライスを食べながら、そんなやりとりをした。  それにしても――人間以外、か。  本来、妖怪薬は、妖のための品だから、人間ではないお客様の方が求めているかもしれないし、使用するのは適切だ。そう考えれば、客層が広がるというのは、少し楽しみだった。やはり、専用メニューも作った方が良いだろうか?  こうして、僕の新たな試行錯誤が始まった。  翌日、午前二時。  僕はローラに言われた通り、絢樫Cafeの看板をopenに変えた。  すると、十分ほどして、扉が開いた。 「あれ? 藍円寺さん」 「――こんな時間にも営業しているのか?」  訪れたのは、藍円寺の住職の藍円寺享夜さんだった。  ……妖ではない。 「その、お客様の幅を広げようと思って。藍円寺さんは、こんな時間にどうしたんですか?」  僕が聞くと、藍円寺さんが咳払いをした。 「仕事の帰りだ」 「ああ、除霊のバイトですね!」 「……簡単に言えばそうなる」  シャツにジャケット姿の藍円寺さんを見て、僕は頷いた。  藍円寺さんは、『除霊のバイト』と知られるのがあまり好きではないらしい。  あくまでも知られない限りは、きちんとした僧侶であるとして過ごしたいようだ。 「ローラは一緒じゃないんですか?」  何気なく僕が聞くと、藍円寺さんが何度か頷いた。 「ああ。危険だからな。ローラには、まずは慣れるまでは簡単な仕事をと思って――俺は、この時間帯に元々頼まれる事が多かったから、今まで通り一人で請け負う場合は、深夜帯に働いているんだ」  僕は……ローラにとって危険な仕事があるのか悩んだが、それは言わなかった。また、藍円寺さんが以前のように私服の理由にも納得した。藍円寺さんが僧服を着るのは、気合が入った除霊の時か、ローラの餌になる時だけらしい。
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