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ローラいわく、僧服姿の方が、力が強まり血が美味しくなるそうだ。
ちなみに僕には、袈裟をつけている藍円寺さんを見ると、お教が聞こえる。
袈裟に記憶されているからだ。僕はあれを自動お経再生装置と呼んでいる。
「何か飲んでいきますか?」
「――そうだな。オススメは?」
最近、藍円寺さんは、『オススメは?』と、聞く。
僕は藍円寺さんの心が読めるから、仏頂面の藍円寺さんが、いかにも珈琲を好みそうなのに、苦いものが苦手だと知っている。そのため、藍円寺さんが好きそうなものをオススメに出すので、藍円寺さんは、いつもオススメを聞くのだろう。
これならば甘い甘いココアを飲んでいても、『オススメされたからだ』と言えるので、周囲の前で格好良い住職風でいたい藍円寺さんには最適らしい。
「ストロベリーローズティはどうですか?」
「それを貰う」
藍円寺さんが頷いたので、僕はテーブル席へと促した。
すると、階段が軋む音がした。
「よぉ、藍円寺」
降りてきたのは、ローラである。猫のような瞳を細めてニヤリと笑うと、ローラは藍円寺さんの席のそばの、カウンターの椅子を引いた。そこはローラの専用席だ。ローラは椅子を引いて、横を向き、顔は藍円寺さんへと向けている。
「こんな時間にどうしたんだ?」
分かっているのだろうが、僕と同じ問いをローラが放つ。
すると藍円寺さんが、気まずそうな顔をした。
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