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翌日、テーマパークへと向かった。僕とローラと火朽さんは、タクシーに乗った。なんでも、ローラは藍円寺さんと待ち合わせをして、デートを楽しみたいらしい。普段の絢樫Cafeでの待ち合わせとどう違うのかは、僕には不明だ。けれどローラは、人間の交通機関は「怠い」そうで、最もマシなタクシーを選んだらしい。
火朽さんは、本当は紬くんと一緒に、バスと電車で現地に向かいたかったようだが――本日、紬くんは、玲瓏院家の車で出かけるらしいからなのか、僕達と一緒に行く事になった。
水咲という妖狐は違うが、あちらの『人間』達も、揃って出かけるらしい。
――藍円寺さんの車で。運転するのは、藍円寺さんみたいだった。
あちらというのは、藍円寺さんと、甥っ子の斗望くん。その同級生の芹架くんと、その保護者の水咲だ。僕は、あまり他者を呼び捨てにしない。ローラは僕にとっての主人公であるから、少し別枠だ。そんな僕にとって、Cafeのお客様から、妖怪薬へのお客様にランクアップした水咲は、ちょっと特別だ。
「桔音って免許持ってたよな?」
その時、ローラが後頭部で手を組みながら言った。すると助手席から、火朽さんが振り返る。
「ええ」
「帰りは、俺と藍円寺でタクシーを使うから、向こうの運転をしてくれ」
「嫌です。僕は紬くんの家の車で、玲瓏院家にお邪魔する予定なので」
「車が無いと、藍円寺が困るだろ」
「僕には関係がありません」
暗示がかかっているタクシーの運転手さんは、何も言わずに聞いている。僕は首を傾げた。火朽さんが遊びに行くのはともかくとして、藍円寺さんは、帰りは運転できないのだろうか?
「ローラ、斗望くん達は、一体どうやって帰るの?」
「ん? 砂鳥、お前も含めて、向こうの車で帰ってくれ」
「へ?」
「俺と藍円寺は、場合によっては朝帰りだからな」
ローラが楽しそうに笑った。僕は全く楽しくない。思わず笑みを引きつらせてしまう。
「いやぁ、ホテルを取っててな」
「へぇ」
「――そういう事でしたら、玲瓏院の車に、斗望くんと芹架くんの同乗を頼んでも良いかもしれませんね」
何を言っても無駄だと判断したのか、火朽さんが呆れたように言った。それから僕を見る。
「砂鳥くんも、そちらで帰りましょう。藍円寺さんの車に関しては、僕達には無関係の問題です」
僕は曖昧に頷いた。後で、ローラが取りに来たって構わないだろうし、朝になったら藍円寺さんも運転する気力が――……あるいは無くなっているかもしれないが、ローラがどうにかするだろう。藍円寺さんに「困る」と言われたら、きっとローラは運転をするはずだ。ローラだって車の運転が出来るのだから。僕や水咲は、紬くんの家の車で送ってもらえば良いに違いない。
そんな事を考えている内に、タクシーは、新南津市ハイランドに到着した。
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