……本編……

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 僕はお茶の淹れ方は学んだが、あまり珈琲の豆を挽くのは得意ではない。  しかしローラや火朽さんは、珈琲を好む。  人間のお客様も、おそらく紅茶党と同じくらい珈琲派がいるだろう。  そう考えて、僕は水出し珈琲の専用器具を手配した。手配というのは、紙に書いてローラに用意してもらうだけで良い。ポタポタと器具からは水が落ち、豆を濡らしていく。お客様に珈琲を頼まれたら、溜まった冷たい珈琲を、鍋に入れて温める。  今までは市販のクリームと砂糖を出していたが、そちらにもこだわった。白い小さなポット型の磁器に入れて、ミルクを出す。砂糖も洒落た角砂糖を用意した。アイスの場合のガムシロップもある。  紅茶やフレーバーティーに関しては、淹れ方を覚えたから問題は無い。こだわったのはそれこそ、カップやポットといった器具だ。他には新鮮な檸檬を用意してみたり。  ショウケースには、駅前のケーキ屋さんから、毎日ケーキを仕入れる事にした。人気店だったが、ローラが暗示をかけて、運んでくれる約束を取り付けてきた。吸血鬼であるローラは、人間に暗示をかけられるのだ。他にも、ガレッドやサブレを中心とした各種のクッキーを洒落たティスタンドに乗せて各処?に飾った。  こうしていくと何かと店内が気になって、それまでの蛍光灯からシャンデリア風の照明に変えてもらい、床は白とうす茶色のギンガムチェック柄に変更した。一つ一つのテーブルはローラが北欧にいた頃の年代物の高級なものを用意してくれて、ソファも上質になった。観葉植物や生花を各処?に飾る。店内だけではなく、外にはテラス席を用意し、お手洗いまで綺麗に整えた。そうしていたら、マッサージスペースがほとんど見えなくなった。  お茶を用意する厨房側の前には、小さなカウンター席も一応ある。だが、一人で訪れたお客様も基本は個別のテーブル席に促す形に決めた。カウンターは、ローラの専用席と言える。  僕は、再オープンの初日、鏡の前に立った。  十代後半――高校生くらいの見た目の僕は、瞳が黄味が混じった緑で、髪の色は薄い茶色だ。日本人離れしているが、最近の日本人は衒気な見た目の人も多いし、クォーターといった海外にも縁がある人間にも好意的になりつつあるから、問題がないと思う。  上は白いシャツ、下は自由だから、本日は焦げ茶のボトムスにした。そこに、黒いギャルソンエプロンをつける。  ――果たしてお客様は来てくれるだろうか?
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