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「お待たせいたしました」
「――ありがとうございます」
僕が皿を置くと、火朽さんが目を細めて笑った。火朽さんが僕に読み取れるように強く『完璧ですね』と思考したから、吹き出しそうになる。紬くんは、輝いているチョコレートケーキに目が釘付けだ。
「ごゆっくり」
そう告げて、僕はカウンターから奥の厨房へと戻った。談笑しながらケーキを食べている二人を、何度か見る。最初は店の内装について話しているようだったが、すぐに大学の話に変わっていた。
口頭の話題と、内心が、必ずしも一致しないのが、人間という生き物だ。だが、紬くんは頭の中でも、真面目に民俗学について考えているようだった。一方の火朽さんに関しては、気合を入れるか、あちらが読ませようとしてこない限り心が読めないので、僕には今は考えが分からない。
それよりも『チョコレートソース』の効果が気になっていた。
実は、ただの飾りではない。一応、僕が作った妖怪薬を使用している。
まずチョコレートソースには、サンダルウッドとスカッシュから抽出したエキスとアンバーとムーンストーンを砕いた粉から精製した妖怪薬を一滴垂らしてある。効果は、『自分の居場所があると感じられるようにする』という品だ。この絢樫Cafeが、いっときでも、ほっとできるような、誰かの居場所になって欲しいという思いから作ったソースだ。
――人間は、疎外感を覚えていたり、居場所がないと感じている人が多い。
それも手伝い、僕はケーキの皿に添える各種のソースに、穏やかな気持ちになる事ができる妖怪薬をトッピングしようと決めたのだ。ホイップクリームとミントの葉っぱは、普通の飾りだけど。
別に違法な薬物を盛っているわけではない。ちょっとしたトッピングやエッセンスだ。これは、人間がお店にアロマを焚いていたりするのと同じ事だ。食べても害は無い。そもそも妖怪薬を取り締まる人間の法律も存在しないんだけれども。
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