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それから十三時になった時、扉が開いた。見ると、背の高い黒髪の大学生と、後ろで髪を束ねている女子学生が入ってきた。
「よぉ、火朽、玲瓏院」
「あ、ホントだ。マリアージュのケーキ、置いてあるね」
二人の声に、火朽さんと紬くんが視線を向けた。
「時岡(トキオカ)くんとまほろさんは――すっかりセットで並んでいるのが自然になりましたね」
火朽さんがそう言うと、二人が照れた。どうやら恋人同士らしい。
「座る?」
紬くんが聞くと、すぐそばの四人がけの席に、時岡くんとまほろさんが向かった。
彼らの心の中を読むと、他にも二人が来るらしい。
「どうぞ」
僕は切ったレモンを入れた水を二人の前に置き、メニューを広げた。
南方まほろさんは、ここのケーキを仕入れている本店でバイトをしているらしい。
時岡くんは、そのカレシであり、火朽さんが先程トークアプリで声をかけたようだ。
……火朽さんは、お客様を招いてくれている。ありがたい。
「俺、レモンティーを下さい。アイスで」
「私は、んー、ニューヨークチーズケーキと、キャラメルマキアートのセットで」
二人の声に頷いていると、すぐに次のお客様が来た。
「お前ら早いなぁ」
「よ、宮永(ミヤナガ)。日之出(ヒノデ)は、なんか外で見ると、いつも以上に濃いな」
時岡くんが声をかけると、その席に、新しいお客様が二人座った。
最初に声をかけられた宮永くんを見て、僕は小さく目を瞠った。
見覚えがあったからである。
――確か、藍円寺さんにお化け屋敷(民家)の除霊についてきて欲しいと前に頼まれた時、そこにいた大学生だ。何人も霊圧が強すぎて脱落していったのだが、最後まで残っていた人間のひとりである。
宮永くんという名前なのかと記憶しながら、その隣にいる日之出くんという大学生を続けてみる。長い銀髪をしている。日本では珍しいと思う。しかしさらに珍しいのは、真っ赤な口紅をしている事だ。顔全体も、白く塗っている。
「いやぁねぇ、火朽くんのお宅がカフェとはねぇ。興味がそそられるねぇ」
どこか奇を衒った外見と口調の日之出くんは、宮永くんと共に、時岡くんと南方さんの正面に座った。
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