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「祈梨(イノリ)は、御遼神社(ゴリョウジンジャ)の巫女さんのバイトで来られないって。今度二人で来るね」
南方さんの声に、周囲が頷いていた。
一気にお客様が増えて、僕は少し焦りそうになった。
それでもメニューを出すのを忘れずに、宮永くんと日之出くんの前にも広げる。
「俺はジンジャーエール。あと、んー……苺のタルトだな」
「何にしようかなぁ、ああ、うん。カフェラテで」
こうして四人分の注文を取り、僕は一気に処理する事にした。繁盛するのは良い事だが、一つ一つに手間をかけるには、焦るとあまり良くない気がする。しかし、お待たせしても良いだろう。早ければ良いというものではないはずだ。その分、心を込めて丁寧に――それが、僕のスタンスだ。
「あ、美味しい!」
運んでいくと、早速口にした南方さんが微笑んだ。心を読むと、お世辞ではなく本心だと伝わって来る。ついつい気になって読んでしまったのだ。
「美味いな」
時岡くんも頷いている。宮永くんと日之出くんも口々に褒めてくれた。
ちなみに、宮永くんは、僕に気づいた様子は無い。
僕の印象は薄かったのかもしれない……。
「なんだか、マリアージュで食べるよりも美味しい気がする。場所が違うからなのかなぁ?」
南方さんは、僕の妖怪薬でトッピングされた皿を見て、小さく呟いた。こちらにはラズベリーソースに妖怪薬を一滴垂らした飾りがある。場所ではなく、おそらくこの妖怪薬のソースの効果だ。僕はそれを伝えなかったが、ほんのりと心が温かくなる。
その後彼らは、全員で雑談をしてから、巫女さんのバイトが終わったというもう一名からの連絡が来たとの事で、夕方の四時頃、一緒に店を出ていった。全員で飲みに行くらしい。僕は、会計作業に追われた。レジを扱うのが、実は一番苦手であるが――これは、マッサージの受付担当をしていた時に大体覚えたので、どうにかなった。
とても疲れたが、心地の良い疲労感がある。充実している。
一気に静かになったお店で、僕は厨房に戻り、自分のためにココアを入れた。
甘さが心地良い。クリームの配置をもうちょっと変えようかなと考える。
次に扉が開いたのは、午後六時頃だった。
入ってきたのは、藍円寺昼威(アイエンジヒルイ)先生だった。先生というのは、お医者さんだからだ。ローラが餌(?)にしている藍円寺さん――こと、藍円寺の住職の享夜さんのお兄さんだ。
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