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世界遺産の登録関連で名称について揺らいでいるらしいが、俗に言う『隠れキリシタン』として、この教会の信徒が新南津市に存在した頃、建築された地下の教会遺跡こそが、夏瑪にとっては、強いて言うならば真の脅威だ。
――そこには、悪魔が封じられている。
当時から、宗教チャンポンとでも言うしかなかったのだろうこの土地においては、キリシタンは隠れていなかったらしい。仏教が広まってなお、神道も絶大な力を誇っていたという。全ては、その時々の当代の玲瓏院家の当主の采配だったようだ。
そう考えていた時、瀧澤教会の前に、黒い高級車が停まった。
降りてきたのは、瀧澤教会の牧師である心霊協会の役員で、送ってきたのは玲瓏院家の車だった。後部座席から、現在の当主の玲瓏院縲が顔を出している。
――轟音がしたのは、丁度その時の事だった。
地面が崩落し、瀧澤教会の庭が陥没した。周囲の通行人が騒然となり、教会からは何人もの聖職者が顔を出す。隣接している学院の教師や、帰宅途中の生徒達も硬直していた。夏瑪もまた歩み寄り、砂埃が舞う庭を見る。
すると、地下へと伸びる階段が見て取れた。
車から降りてきた玲瓏院縲が、ごく近くにいる。
あちらが夏瑪を見る事は無かったが、夏瑪はすぐにそちらを向いた。
理由は簡単だ。美味しそうだったからだ。
玲瓏院紬も大抵美味しそうで、蚊に姿を変えて何度か吸血したが、非常に美味だった。
その父である現当主の縲は、輪をかけて美味しそうな香りがする。
浅葱色の紋付姿で、金髪に緑色の瞳をしている縲は、一見すればチャラチャラとしている青年だ。とても三十代半ばには見えない。同じ年頃を象っている夏瑪と比較したら、それこそ二十代で通るだろう。
縲は、霊能力を持たない婿として、紬と絆の養父として、玲瓏院家のつなぎの当主として、この土地では認識されている。夏瑪もそれは聞いていた。
「なんだこの禍々しい気配は」
瀧澤牧師の声に、夏瑪は腕を組んだ。
現れた地下遺跡からは、そこに封印されている悪魔の気配が漏れ出している。
先ほどの崩落で封印が緩んでいるらしい。
「これは、エクソシストで無ければ、対処が困難だ」
瀧澤牧師を見ながら、夏瑪は率直に言った。すると狼狽えたように瀧澤牧師が顔を上げる。
「エクソシストなんて、日本には、ほぼいない。きちんとした司祭はおろか……そもそも新南津市には、この教会くらいしか――……いいや、この教会にもエクソシストは一人もいない」
焦るように言った瀧澤牧師を見て、その時悠然と夏瑪は笑った。
「そこにいるじゃないか」
「え?」
「――ルイ・ミシェーレ。DGSE認定及び内閣情報調査室指定エクソシスト。ああ、今は玲瓏院縲さんと名乗っているのだったかね」
夏瑪の声に、驚愕したように縲が硬直した。息を飲んでから、ぎょっとしたように視線を向ける。
「早く行かなくて良いのかね? 悪魔が逃げる」
「……っ」
夏瑪の声に忌々しそうな瞳をしてから、縲が瀧澤牧師に歩み寄った。
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