……第一章:日常……

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「行きましょう」  二人の姿を見送りながら、夏瑪はニヤニヤと笑っていた。愉悦を含んだ表情で、腕を組みなおす。  夏瑪は知っていた。玲瓏院縲は、先々代の現玲瓏院のご隠居の縁者だ。亡くなった先代である妻は、即ちまた従姉だったのである。正しく縲は玲瓏院の血筋だが、フランスの人間とのクォーターである。別段染めている外見ではない。  そして――エクソシストは、基本的に他者と関係を持てば、その力が使えなくなる。それに紬と絆が実子ならば、十三歳で子供をもうけた形となるのだが……夏瑪はこちらも知っていた。体外・人工授精だ。  そもそも縲自体、玲瓏院家の好奇心をかったフランスの情報機関が、対悪魔用に人工的に生み出した人物である。二人の子息に関しては、内閣情報調査室庶務零課が子孫の研究のために亡くなった彼の妻との間に子供を人為的に受精させたという経緯がある。  よって、吸血鬼にとって非常に美味しい童貞および力の持ち主であるエクソシストにも関わらず、縲には子供が二人いるのだ。ただしこの事実をしるものは、新南津市には、夏瑪を除けば二人しかいない。一人は玲瓏院家のご隠居であり、もう一人は庶務零課時代の同僚の、藍円寺朝儀だ。あちらは僧侶であるから、子供がいてもなおやはり美味しそうではあるが、童貞からは程遠いので、あまり夏瑪の食指は動かない。 「ああ、いつか喰べてみたいものだねぇ」  玲瓏院縲の後ろ姿を見ながら呟いて、夏瑪は踵を返した。  その『いつか』は、願望による来ない未来という意味ではなく、時機の問題である。
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